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エンターテインメント Anotherlife-もうひとつの生き方としての映画

#010:「もしもあの時この選択をしていたら、或いはしていなかったら?ひょっとして今とは違う人生はあっただろうか?あの時代に戻ってやり直せたなら検証することはできるが、人生は一度きり。だからこそ映画は”もうひとつの人生を見せてくれる”素晴らしいエンターテインメント。有限の人生を、その何倍にも増幅体験できる装置なのだ」

仕事帰りの深夜のタクシーから望む都会の雑踏は、どこか昼間と違った顔をのぞかせる。ガラス一枚隔てた“こちら側”と“あちら側”。
疲れた頭でその両方を客観化しながら、現在の自分や、これからの自分をぼんやりと考えてみる。
そんな時に必ず浮かぶ映画がこれだ。

ベトナムの精神的傷を色濃く残すニューヨーク。タクシーの運転手トラビスはある日、大統領候補パランタインの選挙事務所に勤める美しい選挙運動員ベッツィに一目ぼれする。数日後、彼は事務所をたずね、選挙運動に参加したいとベッツィに申し込み、デートに誘うことに成功した。だが、デートの日、トラビスはこともあろうに、ベッツィをポルノ映画館に連れて行き、彼女を怒らせてしまう。以来、トラビスはベッツィに花を贈ったり、電話をかけても、なしのつぶてだった。毎日、街をタクシーで流すトラビスは、「この世の中は堕落し、汚れきっている。自分がクリーンにしてやる」という思いにとりつかれ、それはいつしか確信に近いものにまでなる。そんなある日、麻薬患者、ポン引き、娼婦たちがたむろするイースト・ビレッジで、ポン引きのスポートに追われた13歳の売春婦アイリスが、トラビスの車に逃げ込んできた。トラビスはスポートに連れ去られるアイリスをいつまでも見送っていた。やがて、トラビスは闇のルートで、強力な拳銃を買った。そして射撃の訓練にはげみ、やがて4丁の拳銃と軍用ナイフを身体に携帯し、それらを手足のように使いこなせるまでになった。そんなある夜、トラビスは食料品店を襲った黒人の強盗を射殺した。この頃から、彼はタクシー仲間から『キラー』と呼ばれるようになった。そしてアイリスとの再会を果たしたトラビスは泥沼から足を洗うように説得するが、徐々にその運命的な使命を信じるようになった。大統領候補パランタインの大集会。サングラスをかけモヒカン刈りにしたトラビスが現われ、拳銃を抜こうとしてシークレット・サービスに発見され、トラビスは人ごみを利用して逃げた。そのままダウンタウンにてトラビスはスポートの売春アパートを襲撃、重傷を負いながらもスポートをはじめ、用心棒、アイリスの客を射殺した。アイリスは救われ、新聞はトラビスを英雄扱いにした・・・。

ベトナムというあからさまなトラウマこそないものの、社会の「アウトサイダー」として疎外感に苛まれる若者は同様に現代の日本で多いとは思う。今起こっている犯罪の多くの根は時代、地域を越えて実は近いところにあるかもしれない。大統領候補暗殺に失敗し、ターゲットが変わったことで、結果英雄扱いされるくだりも強烈な皮肉である。

しかして、この映画が公開された当時にクローズアップされたその社会性以上に、この映画を語るときに語らねばならないのは、なんといっても若かりしロバート・デ・ニーロの狂気なまでの演技の卓抜さとニューヨークの風景に見事に溶け込んだ物憂げなトム・スコットのアルトサックスである。

本映画を観た後に、鏡の前でモデルガンの抜き打ちの練習をしたことに思い当たる読者も少なくないと思う。また音楽を担当したバーナード・ハーマンはヒッチコックの作品を手がけていたことで有名だが、これが遺作となった。
永い間、無冠の帝王として君臨した監督のマーチン・スコセッシも晴れて今回のアカデミー賞にてオスカー受賞したことに賛辞を送りたい。


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城戸誠(きどまこと)Makoto Kido

映画プロデューサー。

映画界とIT業界を股に架ける(?)迷プロデューサー。エンターテインメントを愛し、ライバルはジェリー・ブラッカイマーと言ってはばからない。いつかはハリウッドに負けない超大作アクション活劇を作るのが夢。


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