愛しのJazzMan
ジャズ界切っての大食漢は誰か? 知る限りではオルガンのジミー・スミスが横綱である。このひとは1日に5回も6回も食事をする。しかも1回の量が半端じゃない。とにかく何でもいいのだ。
レストランに行けば、そこで一番早くできる料理と一番おいしい料理の両方を注文する。すぐに出てくる料理で軽く腹ごしらえして、それからおいしいものをゆっくり味わおうという魂胆だ。すぐに出せる料理といえばカレーとか麺類である。こういうのがスミスにとってはアペタイザーになる。だから気取ったレストランなど苦手だという。
スミスとは、ひょんなことからニューヨークで1日中食べまくったことがある。それはすごいを通り越して空恐ろしい体験だった。
まず朝食にと分厚いサンドウィッチとスープを頼み、それでも足りなくてドーナツを3〜4個食べたのが朝の9時前のこと。それでも昼まで持たなくて、11時過ぎには日本レストランに出掛けていって、前菜を4〜5品に魚定食をペロリと平らげる。
次は3時のおやつだといいながら、たまたま通りかかったインド・レストランでタンドーリ・チキン1羽(!)とキーマ・カレー。7時にはイタリアンでまたまたチキンとパスタを2種類、その後11時にホテルでオムレツとステーキのサンドウィッチをルーム・サーヴィスで注文したのだから、とてもじゃないけれどつき合いきれない。食費はいったいどのくらいかかるのだろう?
スミスには、ギタリストのウエス・モンゴメリーと共演したアルバムがある。『ダイナミック・デュオ』(ヴァーヴ)とタイトルされた作品だ。そのジャケットには、ふたりが大きな口をあけて、バケット・タイプのサンドウィッチを頬ばろうとしている写真が使われていた。あるときスミスにその話をしたところ、それはスタジオ近くで仕入れてきたサブウェイのサンドウィッチだったという。
「もちろん一番大きなバケットにトッピングは全種類入れてもらった」
しかもこのサンドウィッチ、スミスはウエスの分まですべて平らげてしまったそうだ。それでも足らなくて、どこかのレストランに行ったか行かなかったとか。そこのところは知らないが、とにかくスミスとはそういうひとである。
東京でもこんなことがあった。コンサートが終わったあとに、レコード会社の担当者と一緒にスミスを夕食に誘ったのである。ぼくは「やめたほうがいいよ」と担当者に話したのだが、接待はしておいたほうがいいとの判断で、六本木のチャイニーズ・レストランに行くことにした。
スミスはいつものように麺類を最初に頼み、その後は魚の姿蒸しや肉の炒めものや野菜など、ひとりで4〜5皿頼んでいる。それで、これは自分が全部食べるから、君たちは君たちで注文するようにと平然といってのけたのである。
レコード会社の担当者は、まさかそこまで食べるとは思っていなかったのだろう。しかし、最後はチャーハンまで頼んで完食してしまった姿を見て度肝を抜かれていた。このときはかなり高級なレストランだったので、ひとりの接待で会社の了解が得られる金額をはるかに超えてしまった。そこでバンドのメンバー全員で食事をしたことにして、領収書を経理に回したそうである。
以後、ぼくたちはスミスのことを「ミスター・ビゲスト・ストマック・オブ・ザ・ワールド」と呼ぶようになったが、この「ミスター」も今年あの世に旅立ってしまった。いまごろは天国でおいしいものをたらふく食べているといいのだが。








