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エンターテインメント 愛しのJazzMan

Chick Corea チック・コリア(p) 文=小川隆夫 JAZZを中心に活躍する音楽ジャーナリスト小川隆夫さんが、これまでに出会い、言葉を交わしたミュージシャンたちの生の声を通して、JAZZの魅力を伝えるシリーズです。 ハービー・ハンコック(1980年)

ピアニストのチック・コリアには凝り性のところがある。とくに食べものに関しては、一度はまるとなかなかそこから抜け出せない。あるとき寿司屋でトロを食べたら、ツアーの楽屋だろうがホテルだろうが、トロになってしまった。餃子のときもそうだった。トロは高いけれど、餃子なら関係者もさぞかしホッとしたことだろう。
自然食にもずいぶんはまって、炊飯器を買い込んでブラウン・ライスを家でも炊いていた時期がある。これは健康にもいいんだといいながら、ただしその上にバターの塊を載せていたのだから、このひと、いったい何を考えているのだろう? マクロビオティックに入れ込んだときは大変だった。どこで調べてきたのか知らないが、当時のマネージャーだったロン・モスとふたりで、渋谷にあるマクロビオティックのレストランに行きたいといい始めた。ぼくはいまでこそマクロビオティックもいとわない自然食志向(あくまで願望です)だが、当時は断然肉食派だった。
まいったなぁと思いながらもつき合いました。ところがそこのオーナーが変わっていて、一見さんお断りではないけれど、好奇心からやってくるようなお客さんは歓迎しない雰囲気だった。ぼくなんかは肉食派の匂いがぷんぷんしていたのだろう。こちらだって食べたくて行ったわけじゃないから、そんなことも顔に出ていただろうし、注文も適当だ。
これって、ジャズ喫茶やジャズ・レコードの専門店なんかにいる親父と同じで、初心者はたたずまいや物腰でわかってしまうんでしょうね。そういうわけで、ぼくにはつっけんどんだが、英語がまったく通じないのにチックとロンにはやたらと愛想がいい。それですっかり気をよくしたふたりは次の日も行きたいというから、場所はわかっているんだから、あとは自分たちで行って下さいと辞退申し上げた。

数年に一度、チックはダイエットをしようと思い立つ。ところがずっとは続かない。しばらく会わないと、太るところまではいかないもののお腹が少し前にせり出していたりする。
それで、ここ数年はチックの中でのダイエット・ブームは去っているようだ。いまはどうやら焼肉にはまっていて、東京に来ると必ず西麻布の交差点近くにある店へ行く。「ブルーノート東京」に出演しているときなら、終演後の時間を見計らって行けばチックに会えるかもしれない。店の名前は書けないが、西麻布の交差点に立ってぐるりと1回転すればその店がすぐ目に入る。さすがに毎晩は行かないものの、1週間の出演中に数回は通っているらしい。
こういうこだわりは、ミュージシャンにとって珍しいことではない。マイルス・デイヴィスは飲み物にこのこだわりというか習慣性があった。スコッチに決めたら朝から晩までスコッチだったし、ペリエになったらどこに行ってもペリエしか飲まない。アート・ブレイキーとチャイニーズ・レストランに行くと、必ずチキンとカシューナッツの炒めもの、それにセサミ・ヌードルを頼んでいた。だから、少し前に書いたジミー・スミスは例外と考えていい(第5回を参照して下さい)。

チックと知り合ってからかれこれ20年以上になるが、その間に一番入れ込んだのがチャーハンだった。まずはどこに行ってもチャーハンである。次は家でも作るからと中華鍋を買い込んでくる。それで散々試したのだろう。しかし上手くいかなかったようだ。
そこで来日したときに、以前一緒に行ったラーメン屋に、また連れていってくれといい出した。そこのチャーハンがチックはことのほか好きだった。その作り方を店の親父さんにどうしても聞いてくれと頼み込まれてしまったのだ。「企業秘密だから無理だよ」というぼくに対して、それなら自分も企業秘密を教えるからとまでいう。ピアノのテクニックのことだが、ラーメン屋の親父がそんなもの教わったってしょうがない。
しかしこの熱意が買われて、チックは隠し味について教えてもらったのである。でもそれ以来、彼が作ったチャーハンは食べていないけれど、どうなったんだろう?

チックとの2ショット(1985年)
チックとの2ショット(1985年)

チック・コリア
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小川隆夫(おがわ たかお)Takao Ogawa

音楽ジャーナリスト、整形外科医、DJ、音楽プロデューサー。

ニューヨーク大学大学院在学中にアート・ブレーキーやブランフォード、ウイントンのマルサリス兄弟をはじめ、多くのミュージシャン、音楽関係者と交流を深める。帰国後、『スイングジャーナル』誌の連載を持つと共に、JAZZを中心に約3000本のライナーノーツを手がける。

小僧comアドバイザリーボードメンバー小川隆夫のJAZZブログ「Keep Swingin'」
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