愛しのJazzMan
これまでにどのくらいのひとにインタヴューしてきただろう? 相当な数であることは間違いない。1000人まではいかなくても500人は優に超えている。それにしてもいろいろなひとがいた。中でも一番優しく接してくれたひとりがテナー・サックスの巨人と呼ばれるソニー・ロリンズだ。
そもそもミュージシャンと接していていやな気分になったことがほとんどない。無口なひとや愛想のないひともいることはいる。ぼくにも少なからずその傾向があるから、気持ちは理解できるつもりだ。疲れていたり、何度も繰り返される同じ質問にうんざりしていたりするときだってあるだろう。
それでも、ミュージシャンは概してインタヴューアーには親切なもの。中でも、ロリンズはどんなときでも優しく接してくれる。思い返せば、東京、ニューヨーク、彼の自宅など、これまでにあちこちでさまざまなテーマのインタヴューをしてきた。そのたびに、ロリンズはいつも誠実に答えてくれた。だからインタヴューしたあとはほのぼのとした気分で帰路に着くことができる。
体験的なことをいわせてもらうなら、ジャズ・ミュージシャンの場合、大物になればなるほど「いいひと度」が上がっているように思う。苦労してきたからだろうか。あのマイルス・デイヴィスだって、実際に接してみると驚くほど優しいひと柄だった。
ロリンズとはこんなこともあった。1997年にニューヨークでインタヴューをしたときのことだ。彼が指定してきた場所は、ミッドタウンにあるSIRスタジオ。ここは、有名なリハーサル・スタジオで、レコーディングの設備も整っている。
どうしてそんな場所を指定してきたのか? 疑問だったが、リハーサルでもやっていてその合間にインタヴューを受けてくれるのだろう、ぐらいにぼくは思っていた。ところが行ってみると、リハーサルも何も行なわれていない。広めのスタジオにはロリンズひとりがいるだけだ。
理由はすぐにわかった。ロリンズはフォト・セッションがあると思っていたのである。インタヴューだけならもっと簡単な場所で済ますことができる。ところが彼はわざわざスタジオを借りて、お洒落をして、その上サックスまでぴかぴかに光らせてぼくを待っていてくれた。撮影をするならと、ロリンズなりのこれは配慮だった。
どうしてこういう行き違いが起こったのだろう? インタヴューのセッティングをしてくれたレコード会社の担当者が勘違いしたのである。
ぼくはこの日、2時間かけてロリンズからありとあらゆる話を聞くつもりだった。この2時間というのが、勘違いを引き起こした原因である。普通、インタヴューといえば30分、長くても1時間程度である。それが2時間といわれれば、写真撮影の時間も含まれていると考えても不思議ではない。
ところがこちらはぼくひとりで、持っているのはインスタント・カメラだけという有り様だからおおいに焦った。事情を説明して、平身低頭、ひたすら謝るぼくに、ロリンズはこういってくれた。
「今日のカメラマンは君なんだから、そのカメラで撮ろうじゃないか」
恐縮しきりとはこういう状況のときに当てはまる言葉だ。
「2時間じっくりインタヴューをしよう。何でも答えるから、遠慮はいらない」
こんな言葉をかけてくれるミュージシャンに会ったのは初めてだった。本来なら気分を害されても仕方のない場面である。ロリンズの優しいひと柄に接して、ぼくはとても嬉しく感じたことを思い出す。同時に、こんなに素晴らしい人物のインタヴューができる光栄にも感じ入っていた。
これ以前にも何度かロリンズにはインタヴューをしている。しかしこのアクシデントをきっかけに、彼にはそれまで以上にいろいろなことが率直に聞けるようになった。これぞインタヴューアー冥利に尽きるというものだ。そして、こんなに素敵ひとたちと出会えるのだからこの仕事はやめられない。
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ニューヨークSIRスタジオにて(1997年) |
ロリンズの自宅にて(2005年) |
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