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エンターテインメント 愛しのJazzMan

Kenny Garrett ケニー・ギャレット 文=小川隆夫 JAZZを中心に活躍する音楽ジャーナリスト小川隆夫さんが、これまでに出会い、言葉を交わしたミュージシャンたちの生の声を通して、JAZZの魅力を伝えるシリーズです。

前回はデヴィッド・マシューズのことを中心に紹介したので、今回はケニー・ギャレットについて書いていこう。ふたりの日本語対談は、開始早々の1ラウンドでケニーのノックアウト勝ちだったが、彼が日本語をマスターした裏には不断の努力があった。
ケニーはマンハッタンからハドソン河を隔てたニュージャージーの住人である。ニュージャージーにも多くの日本人が住んでいる。そのため、毎朝7時からテレビで日本語放送を観ることができる。ひところのケニーは、それを観てはわからないところを質問してくる妙なやつだった。たとえばこんな質問をされたことがある。
「ドラマのタイトルがおかしい、何かの間違いではないか?」というのだ。そのタイトルとは『君の“瞳”をタイホする』だった。ケニーの解釈では“瞳”は人名で、「君の友人の“瞳”というひとを逮捕するのではストーリー的におかしい。第一、瞳という登場人物はいない」と来た。
この理解力というか読みの深さには恐れ入った。それが20年くらい前のことである。その後、ケニーは日本でも人気のアルト・サックス奏者になって何度も来日するようになった。日本の友人も増えたようだ。
そんなある日、ケニーから電話がかかってきた。東京に来ているという。来日の予定はなかったはずなので、どうしてだろう? と思っていると、日本語の講習を受けに自費で来日したというではないか。これにはびっくりした。そこまで日本語に熱心だったのである。
以来、プライヴェートで何度か来日しては日本語の講習に通うなど、会うたびに語彙が増え、イントネーションも流暢なものになってきた。そんな姿を象徴しているのが2003年に発表された『スタンダード・オブ・ランゲージ』(ワーナー)だ。その中に<クリタ先生>という曲がある。
「ぼくは日本の標準語(日本語で彼はちゃんとこういう)を何年か勉強してきた。2001年1月のことだけれど、2週間、日本語学校でクリタ先生について学ぶチャンスがあった。前から先生の生徒だったひとたちは、ぼくよりも文法がよくできた。だけど、発音はぼくのほうがうまい。それで、彼女にとても可愛がってもらったんだ。一所懸命に勉強することを教えてくれたのも先生だ。それが理由でこの曲を書いたのさ。学校に通っている間に、この曲の楽譜を彼女にプレゼントした。でも、先生にはこれがどんな曲だかわからなかった。だから聴いてもらいたくて、この曲をレコーディングしたんだ」
ウエイン・ショーターの<フットプリンツ>にインスピレーションを受けて、8分の6拍子で書いたのが<クリタ先生>である。躍動的なリズムに乗って、ケニーが一風変わったメロディを吹きあげる。クロマティックなスケールに基づいたと思われるメロディ・ラインは、たしかに<フットプリンツ>に通じている。ソプラノ・サックスの特徴を巧みに用いたソロが非常に個性的だ。
しかし、これだけ熱心に日本語を習っていたケニーだが、先日(2006年5月)ニューヨークで会ったときは、あまり日本語を喋べらなくなっていた。このときはミッドタウンにある「バードランド」に出演していたので、久々に会いに出かけたのである。
ライヴが終わったところで楽屋を訊ねてみると、いつもなら日本語で話しかけてくるケニーだが、挨拶だけであとは英語になってしまった。最近は日本語を話していないようで、言葉がすぐに出てこないという。以前ならほとんどが日本語で、難しい話になるときだけ英語に切り替えていた彼を思うと、ちょっともったいない。
今度は、前回の話ではないが、デヴィッド・マシューズにまた会ってもらって、彼の上達ぶりに触れてもらおうかと思っている。果して功を奏すかどうかわからないが、チャンスがあればこのショック療法も狙ってみたい。
でも日本を含めて東洋の文化には相変わらずの撞着ぶりで、この日も<赤とんぼ〜アリラン〜翼をください〜とうりゃんせ>のメドレーをステージでは聴かせてくれた。

ケニー・ギャレットとの2ショット(2006年):ニューヨーク「Birdland」の楽屋にて

ケニー・ギャレットとの2ショット(2006年):ニューヨーク「Birdland」の楽屋にて



関連情報

『Kenny Garrett/Standard Of Language』(Warner Bros.) お奨めCD●『Kenny Garrett/Standard Of Language』(Warner Bros.)
シェドリック・ミッチェルのピアノにチャーネット・モフェット、クロストファー・デイヴ(ds)がというリズムセクションをバックにギャレットが咆哮する、これまでのギャレット評を一掃するような素晴らしいい作品。
スピード感、疾走感、そして爆発するエネルギーが、聴く者を捕らえて放さない。
1960年、デトロイトというジャズの伝統が息づく街から出てきたギャレットの、かつての「Crioss Cross Label」からのデビュー時代の意気込みを思い起させる演奏となっている。

ジャズマンが愛する不朽のJAZZ名盤100 小川隆夫の本●「ジャズマンが愛する不朽のJAZZ名盤100」
チャーリー・パーカーからノラ・ジョーンズまで、163人が本音で語る究極の100タイトル。「マイルスはあの名盤をどう思っているのか?」
筆者が過去にインタビューしてきた多くのミュージシャンの内、163人のさまざまなアルバムに対するコメントを集めたもの。いわば「ミュージシャンが紹介するジャズの名盤集」。

小川隆夫(おがわ たかお)Takao Ogawa

音楽ジャーナリスト、整形外科医、DJ、音楽プロデューサー。

ニューヨーク大学大学院在学中にアート・ブレーキーやブランフォード、ウイントンのマルサリス兄弟をはじめ、多くのミュージシャン、音楽関係者と交流を深める。帰国後、『スイングジャーナル』誌の連載を持つと共に、JAZZを中心に約3000本のライナーノーツを手がける。「小僧こだわりJAZZ Live」のプロデューサーとして、「南佳孝 a stylish night with JAZZ'n pop」ではナビゲーターも務める。

小僧comアドバイザリーボードメンバー小川隆夫のJAZZブログ「Keep Swingin'」
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