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エンターテインメント 愛しのJazzMan

Anthony Barboza アンソニー・バルボーザ 文=小川隆夫 JAZZを中心に活躍する音楽ジャーナリスト小川隆夫さんが、これまでに出会い、言葉を交わしたミュージシャンたちの生の声を通して、JAZZの魅力を伝えるシリーズです。

マイルス・デイヴィスが吹き込んだ『ユア・アンダー・アレスト』(ソニー)について、最初に詳細な情報を教えてくれたのがフォトグラファーのアンソニー・バルボーザでした。彼はそのアルバムのレコーディングとジャケット用の写真を撮影した人物です。その話が聞きたくて、マンハッタンのユニオン・スクエアに構えている自宅兼スタジオを訪ねたのが1985年2月末のことです。
そこでぼくは驚くべきニュースを耳にします。アルバムのオープニングを飾る<ワン・フォーン・コール〜ストリート・シーン>にスティングが加わっているというではありませんか。ただし楽器やヴォーカルの参加ではなく、フランス語を喋る警官役として声の出演をしたというのですから、興味がそそられました。おまけに、そのトラックではマイルスもセリフを喋っているというのです。
当時を思い返すと、マイルスはヒップ・ホップのサウンドに強い関心を寄せていました。ハービー・ハンコックを介してビル・ラズウェルと接触したり、ブルックリンで活躍する無名のラッパーを家に呼んだりしていたのです。この曲はその前兆を窺わせる内容と考えてよさそうでした。しかし、それでもスティングの参加は意外です。

バルボーザと会ったのは偶然のことでした。このとき、ぼくはマイルスに初めてのインタヴューをするため、ニューヨークで待機していました。その話は、以前にもこの連載で書いています(2回目と3回目)。何度かキャンセルされそうになって、どうなるのか不安な数日を過ごしていました。そんなときに、気分転換をしようと行ったグリニッチ・ヴィレッジのバーで隣り合わせになったのがバルボーザです。
最初は単にとなり合わせになったことから、普通の世間話をしていました。ところがお互い音楽の仕事をしているとわかってからは、話が弾みました。ただし掲載した写真をご覧になっていただければわかると思いますが、この人物、人相風体がどうにも怪しい。
しかも、そのうちにマイルスのジャケット写真を撮影したといい始めるではないですか。あまりにも出来すぎの話に、本当かな? と疑いました。そもそもバルボーザなんていう名前は聞いたことがありません。
しかし、こちらはマイルスに会いたくてニューヨークにまで来ている身。話を聞いていると、取材目的である新作のジャケット写真を撮影した上、ぼくもレコード会社の担当者もまだ聴けていないテープの一部もコピーで持っているというのですから、何たる偶然とさらにびっくりしました。
こんな出会いって普通なら考えられません。ところがぼくの場合は嘘のような偶然がこれまでに何度もありました。マルサリス兄弟やアート・ブレイキーがとなりのアパートに住んでいたこともそうですし、日本に帰ってきてからは、シンガーの阿川泰子さんが壁ひとつ隔てたとなりの部屋に住んでいました。それも彼女と世間話をしていたときに気がついたほどで、ひととの出会いでは妙に不思議なことがたくさんあります。
それで、今回はバルボーザです。彼が盛んに自分のロフトに来いと誘います。このとき、ぼくは日本から一緒に来たカメラマンとふたりでした。彼も興味を持っている様子ですが、見知らぬひとに誘われて彼のロフトに夜中に行くのは躊躇しました。それでも写真が見たいし、話も聞きたい。こちらはふたりだし、向こうは体が小さい。いや、でもロフトに仲間がいたら、などと頭の中ではいろいろな妄想がうごめきます。
しかしマイルスのことはかなり詳しいし、新作のことも知っているわけだから、この人物は嘘はついていない。ぼくたちはそう判断しました。そして連れられていったのが、先に書いたユニオン・スクエア近くにあったロフトです。
古い倉庫を改装したバルボーザのロフトは、一等地に数えられる地域でもかなりのスペースを取っていました。そこを借りているっていうことは、収入も相当にあるっていうことでしょう。聞けば、普段はロックのアーティストの写真を撮っているとのことです。プリンスやスティングやサンタナなどの大きな写真が部屋のあちこちに無造作に立てかけられていました。
そして、大きなフォルダーからバルボーザがマイルスの写真を取り出しました。初めて見るその写真に意表をつかれました。マイルスがレザーのジャケットを着て、長身の銃を手にしているのです。さすがロック系のフォトグラファーです。単なるポートレイトでは済ませていません。
この時点で、ジャケット・デザインは決定していませんでした。いくつかの候補写真と、デザインのラフなアイディアもバルボーザは見せてくれました。どれも、マイルスらしい鮮烈な印象を覚えるものです。
バルボーザがマイルスの写真を撮った理由も、ぼくはこのロフトに入った途端、何となくわかりました。プリンスの写真がヒントです。そして思ったとおり、彼はプリンスの推薦によってマイルスを撮影したそうです。リクエストはたったひとこと。

「プリンスよりかっこいい写真じゃなかったらだめだぞ」


アンソニー・バルボーザと

アンソニー・バルボーザとの2ショット(1985年):バルボーザのロフトにて

マイルス・デイヴィスと

マイルス・デイヴィスと2ショット(1985年):マリヴの別荘にて



関連情報

『Miles Davis/You're Under Arrest』 お奨めCD●『Miles Davis/You're Under Arrest』(Sony)
内容(「CDジャーナル」データベースより)
マイケル・ジャクソン「ヒューマン・ネイチャー」&シンディ・ローパー「タイム・アフター・タイム」のカヴァー、さらにスティングが1曲ヴォイスで参加しているというポップなマイルスの決定盤。

となりのウイントン 小川隆夫の本●「となりのウイントン」
「あの頃のマンハッタンの匂いがプンプンして懐かしい気分になるよ」(日野皓正氏の帯コメントより)。
医者とジャズ・ジャーナリスト、二足の草鞋を履いて、いつのまにか20年以上が過ぎてしまった…。ジャズ好きが高じてマンハッタンに留学してしまった青年外科医。そんな若き筆者と親交を結んだミュージシャンたちとのエピソードを綴った、初めてのエッセイ集。

小川隆夫(おがわ たかお)Takao Ogawa

音楽ジャーナリスト、整形外科医、DJ、音楽プロデューサー。

ニューヨーク大学大学院在学中にアート・ブレーキーやブランフォード、ウイントンのマルサリス兄弟をはじめ、多くのミュージシャン、音楽関係者と交流を深める。帰国後、『スイングジャーナル』誌の連載を持つと共に、JAZZを中心に約3000本のライナーノーツを手がける。

小僧comアドバイザリーボードメンバー小川隆夫のJAZZブログ「Keep Swingin'」

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