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エンターテインメント 愛しのJazzMan

Bruce Landval ブルース・ランドヴァル 文=小川隆夫 JAZZを中心に活躍する音楽ジャーナリスト小川隆夫さんが、これまでに出会い、言葉を交わしたミュージシャンたちの生の声を通して、JAZZの魅力を伝えるシリーズです。

今回からしばらくは、ジャズ・マンではなく関係者の話を紹介しようと思う。1985年にブルーノートが活動を再開するにあたり、社長に就任したのがブルース・ランドヴァルだ。彼は1970年代に大手のコロムビアで社長を務め、その後はエレクトラ傘下でジャズ・レーベルのエレクトラ/ミュージシャンを立ち上げ成功に導いている。辣腕経営者として尊敬されていたランドヴァルを迎えたのだから、親会社であるEMIアメリカのブルーノートに対する気合いの入れようも並ではない。
ランドヴァルは、ブルーノートを創立したアルフレッド・ライオン同様、業界人の中では珍しいほど熱心なジャズ・ファンだ。14歳のときに初めて買ったレコードがブルーノートの出したセロニアス・モンクの<クリス・クロス>だったことからもそれはわかる。1954年にブルーノートが実況録音した『アート・ブレイキー/バードランドの夜』の現場にも、未成年者が入れる同店のミルク・バーに陣取ってその模様をつぶさに見ていた。
「それまでのビバップとは違う雰囲気を演奏から感じ取っていた。でも、それより圧倒されたのがクリフォード(ブラウン)のプレイだ。わたしといくつも違わない若者が達者な演奏をしていたことにびっくりした」

物心がついたときからジャズの現場に出入りしていたランドヴァル。モダン・ジャズは黄金時代を迎えようとしていた。それだけに胸をわくわくさせながらこのときのライヴをはじめ、さまざまな演奏に接していたのだろう。
そんな人物だから、大学を卒業したときにブルーノートへの入社を熱望したのも不思議でない。募集はしていなかったが、ランドヴァルは面識のまったくないライオンに面会を申し込み、就職したい旨を伝えている。
「1957年のことだ。あのときはやんわり断られた。“ブルーノートは個人の会社なんでこれ以上ひとを雇う余裕はない”ってね」
ブルーノート入りがかなわなかったランドヴァルはコロムビアに就職し、やがて社長の重責を担うまでになった。その彼が、巡り巡ってブルーノートの社長としてライオンの意思を立派に継いでいるのだから人生は面白い。

「若い日の夢がかなった。アルフレッドの名を恥かしめないようにブルーノートを発展させていくのが使命だと思っている」
ランドヴァルもこの社長抜擢の人事に胸を躍らせていた。ブルーノートの伝統を守ること──彼の基本方針がこれだ。メインは新人の登用とジャズのもっとも新しい動きの紹介である。旧譜の再発売と、マイケル・カスクーナがそれまでに行なってきた未発表演奏の発掘も継続させることにした。もちろんメインのプロデューサーにはカスクーナを迎えている。そしてこの二人三脚がブルーノートの伝統をさらに輝かしいものへと発展させることになった。

ランドヴァルが尊敬に値するのは、社長になったからといってオフィスでデスク・ワークにかじりついているタイプでないところだ。現場主義こそが彼の信条である。才能のあるミュージシャンの話を耳にすれば、まずはみずから足を運んでそれが本当かどうかを確かめる。そうやって発掘した最大のアーティストが、デビュー作でグラミー賞の8部門制覇という快挙を成し遂げたノラ・ジョーンズだ。

「アルフレッドもそうだったけれど、わたしは自分が聴いて好きになったアーティストの作品しか作らない。レーベルがここまで大きくなってくると、そうした手作業のプロセスがないがしろにされやすい。ほかの仕事に忙殺されるからね。でもブルーノートでは、わたしがいる限り昔ながらの家内工業的な過程を経てアルバムを作る方針は変えない」
ジョーンズの作品が世界中で800万枚以上も売れたことを筆頭に、最近のブルーノートはジャム・バンド系のアーティストを積極的に紹介することで新しいファンを獲得してきた。
「これぞブルーノートのスピリットだと思っている。アルフレッドはいつも最先端のジャズを記録し続けてきた。そのことをわたしも踏襲しているに過ぎない。アルフレッドが教えてくれたことは、自分の耳を信じることだった。そのためには現場に足を運び、どんなジャズが一番新しいのか、そして素晴らしいものなのか見極める必要がある」

そんなランドヴァルだから、カスクーナにライオンを紹介されるや、ふたりはたちまち意気投合する。 「話してみて驚いたのは、アルフレッドがいまだジャズとジャズ・ミュージシャンに大きな愛情を注いでいたことだ。電話での会話はいつも1時間以上。ワン・ナイト・ウィズ・ブルーノート(ブルーノートの再開を記念して開催されたコンサート)のアイディアを話したときは、出演ミュージシャンから演奏する曲のことまで、さまざまなアイディアを授けてくれた」
こう振り返るランドヴァルほどブルーノートの新社長に相応しい人材はいない。エレクトラ/ミュージシャン時代に手掛けたデクスター・ゴードンにしても、次代を担う若手を集めてレコーディングした『ヤング・ライオンズ』にしても、彼はブルーノートの精神を手本にアルバム作りをしたと語っている。ブルーノートの、そしてライオンのDNAを正しい形で受け継いだのがランドヴァルだ。その彼が率いる新生ブルーノートも、いまでは20年以上の歴史を誇るまでになった。

ブルース・ランドヴァルとのショット(1988年)

ブルース・ランドヴァルとのショット(1988年)



関連情報

『Nora Jones/Come Away With Me』 お奨めCD●『Nora Jones/Come Away With Me』(Blue Note)
ノラ・ジョーンズはこのデビュー作(邦題は『ノラ・ジョーンズ』)でグラミー賞の主要4部門を含む8部門受賞という快挙を成し遂げた。シンデレラ・ガールというのは彼女のためにある言葉だ。ジャズ風のフィーリングはあるものの、ノラの歌にはフォーキーな土の香りがする。そこが9.11のテロで傷ついたひとびとの心を癒してくれた。哀愁のこもった歌声が、ひとびとの心に潜在していた郷愁を呼び覚ますのだろうか。特大のヒットは、そんな個性的なヴォーカルと素朴な歌声の中に希望の光が見えたからだ。飾り気のない歌唱が胸に染みる。シンプルな編成のバック・バンドが奏でるアコースティックなサウンドも心地がいい。大向こうを唸らす派手さはないが、歌声が誠実で優しい。それが世界中で愛される理由だろう。

となりのウイントン 小川隆夫の本●「となりのウイントン」
「あの頃のマンハッタンの匂いがプンプンして懐かしい気分になるよ」(日野皓正氏の帯コメントより)。
医者とジャズ・ジャーナリスト、二足の草鞋を履いて、いつのまにか20年以上が過ぎてしまった…。ジャズ好きが高じてマンハッタンに留学してしまった青年外科医。そんな若き筆者と親交を結んだミュージシャンたちとのエピソードを綴った、初めてのエッセイ集。

小川隆夫(おがわ たかお)Takao Ogawa

音楽ジャーナリスト、整形外科医、DJ、音楽プロデューサー。

ニューヨーク大学大学院在学中にアート・ブレーキーやブランフォード、ウイントンのマルサリス兄弟をはじめ、多くのミュージシャン、音楽関係者と交流を深める。帰国後、『スイングジャーナル』誌の連載を持つと共に、JAZZを中心に約3000本のライナーノーツを手がける。

小僧comアドバイザリーボードメンバー小川隆夫のJAZZブログ「Keep Swingin'」

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