愛しのJazzMan
早いもので「愛しのJazz Man」も今回で40回目を迎える。前回の冒頭でも触れたが、少し前に単行本の『愛しのジャズメン』が東京キララ社から刊行されたし、夏の終わりごろにはこの連載を中心にまとめた『第2集』も出版される。そこでひと区切りということから、今回をもって小僧comでの連載は終わりにしたい。
この連載は単行本を出版するのが目的でスタートした。『第2集』の出版が決まったことからその目的も達成されたと思う。振り返るなら、最初は自分のブログで不定期に書いていたものである。途中から小僧comのこのページで週1回の連載になった。ただし、書きたいことはまだ沢山あるので、これからは原点に戻り、自分のブログで最初と同じように思いついたときに書いていくことにする。それがまとまれば『第3集』として実を結ぶかもしれない。
小僧comにおける最終回は、ぼくにとって永遠のアイドル、マイルス・デイヴィスでいこう。
ぼくがジャズに本気でのめり込むようになったのは、マイルス・デイヴィスのレコードを聴いたからだ。それまでにも少しはジャズを聴きかじっていた。ところが高校2年のときにラジオから流れてきた『マイルス・スマイルズ』(ソニー)に心を奪われてしまった。以来、彼を中心に40年、ジャズを聴き続け、いまのぼくがある。
そのマイルスに初めてインタビューをしたのは1985年のこと。そのときになぜか気に入ってもらえたようで、以来、彼がこの世を去るまでの6年間、東京のホテルやニューヨークのアパート、晩年はホテル住まいをしていたから、セントラル・パークが眺望できるスイート・ルームなどでいろいろな話を聞かせてもらった。
マイルスといえば、“傲岸不遜”で“気まぐれ”な人物として知られている。たしかにそういう側面もあるようだ。ただし、素顔の彼は気持ちの優しい紳士だった。ミュージシャン同士の会話ならスラングも使うマイルスだが、ぼくとの会話では常に礼儀正しい言葉使いをしていた。初めて会ったときは、そこがこちらの抱いていたイメージとおおいに違うことから驚いたりとまどったりしたものだ。
マイルスは、その時代の黒人にしては裕福な家の出身である。父親はイースト・セントルイスで白人も患者に持つ歯科医として評判を集め、唯一、白人が住む地域に家が持てた黒人だった。そんな育ちのよさが、その物腰からは伝ってくる。
マイルスの優しさには何度か触れたことがある。たとえば、ホテルで彼と会っていたときだ。ちょうど昼食の時間だったので、彼がルーム・サーヴィスでチキン・サンドウィッチと飲み物を頼んでくれた。ところが、マイルスは食べ終わるころを見はからいベッド・ルームに消える。何をしていたかというと、デザートと飲み物をオーダーしてくれていたのだ。
マイルスはこんな風に気を使うひとだった。“傲岸不遜”といわれたのも、誤解されていた面がずいぶんある。彼はとてもシャイな性格だった。だからぶっきらぼうな態度を取ったり、言葉が少なかったりする。
インタビューも苦手だった。そのことは最初にはっきりいわれていたから、マイルスと会うときはテープ・レコーダーを回さなかった。すると、彼は問わず語りにいろいろなことを話してくれる。記憶も際めて鮮明だった。ぼくはマイルスに会うたび、いつもジャズの世界を彼の案内で旅行している気分になれた。
そのマイルスがこの世を去って16年。そして生きていれば81歳。ときが経つのは早い。
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マイルス・デイヴィスとの2ショット(1985年) |
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お奨めCD●『Kind Of Blue』(Sony)マイルス・デイヴィスの凄さと素晴らしさを、そしてジャズの創造性と魅力を端的に味わいたいならこの1枚を聴けばこと足りる。ジャズは奥が深いし幅広い。それでもジャズのあらゆる要素がこの作品に凝縮されている。彼はその死が訪れるまで、約半世紀にわたってこの音楽をリードしてきた。そのマイルスがもっとも充実し、純粋にジャズを発展させていたのが1950年代のこと。彼自身は悩める時代も体験していたが、それすらばねにしてこの時代にジャズも自身も大きく羽ばたたかせた。その10年間を締め括るかのように吹き込まれたこの作品(1959年録音)は、モダン・ジャズが理想的な形で行きつくところまで行ってしまったと感じさせるものだ。こんな表現ができたひとはいまも昔も彼をおいてほかにいない。
小川隆夫の本●「愛しのジャズメン」(東京キララ社刊 税込1,575円)ミュージシャンやジャズ関係者との個人的な交流の中から垣間見える、彼らの素顔や微笑ましいエピソードを綴る「愛しのJazz Man」。同じテーマで本連載とは別のエピソードをまとめたのが「愛しのジャズメン」です。
小僧comでは、本書を小川隆夫さんのサイン入りで販売いたします。本連載と合わせてお楽しみください。
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医者とジャズ・ジャーナリスト、二足の草鞋を履いて、いつのまにか20年以上が過ぎてしまった…。ジャズ好きが高じてマンハッタンに留学してしまった青年外科医。そんな若き筆者と親交を結んだミュージシャンたちとのエピソードを綴った、初めてのエッセイ集。







