「“話のタネ”に食べてみた!史上最強 セレブのお取り寄せ」
童謡詩人、金子みすゞに「金平糖の夢」という詩がある。
金平糖は 夢みてた。春の田舎のお菓子屋の 硝子のびんで 夢みてた。
硝子の舟で 海越えて
海のあなたの 大ぞらの お星になつた 夢みてた。
夢を見ながら散っていった金平糖もある。
戦艦大和の最期を描いた映画『男たちの大和』。決死の特攻前夜、月明かりの甲板。軍艦の台所を預かる烹炊所(ほうすいしょ=厨房)の班長、反町隆史演じる森脇二等兵曹が年端もいかない少年特年兵たちに、ふだん口に出来ない菓子を振る舞う切ないシーンがある。栗饅頭、大納言入りの蒸し羊羹、餡がたっぷり入った大福。少年兵たちは今生の別れとばかりにむさぼり喰う。そしてもうひとつ、カメラが寄りきっていないのでわからないかもしれないが、そこには色とりどりの金平糖が…。少年兵たちは翌日、大空の星になった。
金平糖に命を救われた男がいる。金平糖に命をかけた男がいる。
京都「緑寿庵清水」、今は亡き3代目主人、清水勇がその人だ。緑寿庵清水は日本でただ一軒の金平糖専門店である。皇室の慶事のたびに、金平糖入りのボンボニエールが話題になるのでご存じの方も多いだろう。創業弘化4年(1847年)、以来、一子相伝で金平糖作りのノウハウが伝えられている。室温50度を超える灼熱の工房を現在守っているのは4代目、誠一とその息子。甘い蜜の香りが広がる工房で、午前3時から夜遅くまで、直径が2メートルもある回転する大きな釜と連日格闘している。さて、金平糖に命を救われた3代目、勇の話だ。第2次大戦中、勇は徴兵で中国戦線へ送り込まれた。陸軍誠部隊。ここはお国の何百里、長く厳しい戦さだった。出征後に生まれた子供の顔を見ることもなく転戦していた勇はある日、銃弾乱れ飛ぶ迫撃戦で瀕死の重傷を負った。匍匐前進、敵と向き合う中、前を行く仲間のヘルメットを敵弾が貫通。仲間は即死した。そして弾丸はそのまま、這いつくばって銃を構えていた勇のあごをぶち抜き、腹を突き抜け、土中へとめりこんだ。死んでもおかしくなかった。死線を彷徨った。だが勇は生きた。生かされた。現地で支給された携帯食糧に乾パンがあった。金平糖とセットだった。その金平糖はほかでもない、勇の留守中、実家を守る2代目の父が製造したものだった。見間違うはずもない。思わず涙がこぼれ落ちた。勇は固く誓った。生きて帰る、生きて帰って金平糖を作る、おやじの跡を継ぐ…。勇は奇跡的に命を取りとめ、傷痍軍人として生還した。そしてその後、長期療養を経てようやく動けるようになると、怪我で自由がきかなくなった身体にむち打つように工房に立ち、大釜と向き合った。その姿には鬼気迫るものがあったという。やがて勇が作る金平糖は、神ワザとさえ言われるようになった。「わしは金平糖を作るために帰された」、ことあるごとに勇はそう言った。
そんな父の姿を見て育った4代目、誠一とその息子が、日々慈しむように金平糖を大事に丁寧に愛情を注ぎ込んで育てている。緑寿庵清水の金平糖は、餅米を細かく砕いたイラ粉を芯にしている。イラ粉を回転する大釜に入れ、グラニュー糖を溶かした蜜を少しずつ振りかけ、大きなコテでかきまぜながら芯に糖分を吸収させる。そして水分を蒸発させては、また蜜をかけてかき混ぜる。結晶の具合を見ながら、釜の回転を速くしたり遅くしたり、釜の角度を上げたり下げたり。この作業を延々繰り返す。釜に付きっきりで、手を放すことはできない、目を離すこともできない。すると3日目あたりからようやく金平糖独特のイガイガが生えてくる。朝から晩まで手をかけても、一日に1ミリも大きくはならない。天候や湿気の影響によっては逆に小さくなることさえあるという。夜にはいったん「舟」と呼ばれる木の器にそっと移して一晩寝かせる。そしてまた翌日…。気の遠くなるようなこの作業を16日から20日間程度繰り返す。かくしてきらきら輝く星のような金平糖が誕生する。緑寿庵清水には現在、ニッキなど昔ながらの定番に加えて、季節限定のフルーツ果汁やチョコレートの金平糖、さらにはブランデーや日本酒、梅酒といったアルコールを結晶化させた究極の金平糖がある。チョコレートは予約しても手に入るまでに1年半、一番人気の梅酒は2年近く待つことになる。
ところで、奇跡の生還を果たした3代目、勇は83歳まで生きた。そのいまわの際、跡取り息子や孫たちに見守られる中、意識朦朧としながらうわごとのように遺した言葉があると、4代目の女将が語ってくれた。その最期の言葉とは・・・
青いこんぺいとうがまわってる。
誠一、見てるか?
手ばなし、目ばなししたら、あかんぞ。
勇は生涯、金平糖の夢を見ていた。
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工房 |
緑寿庵清水の金平糖 |
協力:世界バリバリ☆バリューの本「史上最強!セレブのお取り寄せ」
(アスコム刊 大好評発売中)
関連情報
緑寿庵清水 陶器三段入「華やか」
価格 18,900円(税込)
京都市左京区吉田泉殿町38番地の2
TEL 075-771-0755
「華やか」には、定番や季節限定品、究極の金平糖など6種類が入っている。年に1度しか作らない究極の金平糖(1月チョコレート、2月キャラメルあられ、6月ブランデー、7月梅酒、11月日本酒、12月宝来豆)は予約随時。ただし1年以上待つことも覚悟されたし。左の写真、陶器入のボンボニエール(税込2,625円)は2006年秋新登場。









