「“話のタネ”に食べてみた!史上最強 セレブのお取り寄せ」

「さらさら」とくれば、血液さらさらでも、笹の葉さらさらでも、髪の毛しっとりさらさらヘアーでもなく、誰がなんと言おうと「お茶漬さらさら」に決まっている。小腹がすいたときに、さらさらっとかっこむ鮭茶漬や梅茶漬のうまいのなんの。で、なんでいきなりそんな話になったかというと、今回は、一杯何万円もする幻のかに、"間人(たいざ)ガニ"で、かに茶漬をさらさらっとさりげなくいただこうという算段なのだ。小津安二郎の映画『晩春』で原節子がタクアンをぽりぽりやりながら一人でさらさらと…、同じく小津の『お茶漬の味』では、すきま風吹く夫婦役の佐分利信と木暮三千代が夜中に寡黙にさらさらしながら「夫婦はお茶漬の味なんだよ」なんてぽつりとささやいて和解してみたりしたあの茶漬とは完全別世界、かの美食家であり大日本茶漬党の魯山人もびっくりの超豪華"間人ガニ茶漬"にチャレンジすると、誰に頼まれたわけでもないが、勝手にそう決めた。
今回、生ではなく、ゆでて届けてもらった。
家で大きなカニ一匹まるまるゆでる鍋がないのと、「ゆでたのがいちばん旨い。それもゆでたてではなく、冷ました方がうまい。冷ますと身に甘みが出て、みそも引き締まっていいぐあいになる」と聞いたので、一も二もなくプロにゆでてもらった。で、電話で教わったとおりに脚やお腹のジャバラ状のふんどしをハズして解体し、包丁を入れて、ちょいとつまみ食いで身にむしゃぶりつく…。するとカニ独特のものだと勝手に思いこんでいた磯臭さがまったくなく、おやおやこれはたしかに極上の美味と、つい一口、また一口。おっと、つまみぐいはほどほどに、打倒魯山人の茶漬用にとっておかねば。無心に身やみそを取り出してよけたら、山になった殻や甲羅を、それ用に準備したぐつぐつの鍋に放り込んで、コトコト煮込んで出汁をとる。はいはい、さっそくいい香りがしてきましたよ。
さてこの間人ガニ、関西エリアでは毎年11月6日の漁解禁日に、美しい海岸線と昔ながらの街並みが残る漁師町、丹後半島の間人(たいざ)漁港をテレビ中継したり、京都の老舗ライバル百貨店が初セリの獲物をどちらが早く店頭に並べられるかを競う追っかけドキュメントを流したりするほど注目の美味だそうだ。そもそも"間人ガニ"とは、京都府丹後町の間人港に水揚げされる山陰では松葉ガニと呼ばれるカニのことで、早い話、北陸の越前ガニと同じく、カニの王様ズワイガニである。丹後半島沖約30キロにある魚礁の泥地に生息していて、日本中どのエリアでとれたカニともひと味ちがうと評判なのだが、あいにく間人港には小型の漁船が5隻しかないため、水揚げが極端に少ない。さらに冬になると海が荒れてなかなか漁に出られず、そのためお宝度がますます高くなる。ちなみに昨年12月の1ヶ月間、悪天候により、わずか5日しか船を出していないという。通常、カニ漁は効率よく漁獲高を確保するため、沖に出て2〜3日作業をするが、幸いというか、間人港の漁船はサイズ的に日帰り漁しかできないため、逆にそれがカニの鮮度を保証することになり、間人ガニのグレードはますますアップする。出荷の際、脚に緑色のタグが付けられるが、これは身の詰まり具合や大きさ、重さなどの厳しいチェックをパスした値打ちある良質なカニだけに与えられる最高級ブランドの証だ。
ところで、間人を「たいざ」とは、なかなか読めないが、そのわけは…
六世紀後半、聖徳太子の生母、穴穂部間人(あなほべのはしうど)皇后に由来する。間人皇后が、蘇我氏と物部氏の争乱をさけるために丹後半島の漁村に身をよせ、やがて争いも治まり斑鳩へ戻るとき、自分の名前をとって「間人(はしうど)村」と名付けたものの、村人はみな、畏れ多くて呼び捨てになどできないと、皇后が退座(たいざ)したことにちなんで「たいざ」と呼ぶようになったという。なるほど、もともと間人は高級ブランドにふさわしい高貴な名前だったのだ。
さーて、お鍋グツグツ、部屋中が、カニのだし汁のいい香りで満ちてきましたよ。
土鍋で炊いたあつあつごはんをいったんおひつに移してから茶碗によそって、その上にほぐした間人ガニの身をたっぷりちらし、さらにかにみそをドーンとトッピング。色合いも意外と鮮やか。白ごまをふってもいいかもしれない。で、そこへ、だし汁をそっと注いだら、さっそくさらさらっといただきます。すると…
むむむ。こんなにシンプルなのにこれほどまでにストレートにうまくていいのだろうか。圧倒的な素材の勝利だ。昭和初年の茶漬派、魯山人にどんなもんだと尋ねてみたい。
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かに茶漬 |
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関連情報
丹後ひもの屋ドットコム「間人(たいざ)ガニ」
特大サイズ(1.0〜1.2kg) 25,000円
超特大サイズ(1.2kg以上)30,000円
年に数匹しか水揚げされない最大級特大サイズ(1.3kg以上)50,000円
*時期と相場で変動します
*漁期:11月6日〜3月30日
『魯山人の料理王国』(北大路魯山人著 文化出版局刊)魯山人は茶漬が大好物で、それもそんじょそこいらの庶民派実用茶漬ではなく、とびっきりの素材を吟味した趣味の茶漬、贅沢茶漬を自分で作ったという。ちなみに昭和7年当時のお薦め茶漬は以下の12点だ。納豆茶漬、海苔茶漬、塩昆布茶漬、塩鮭茶漬、塩鱒茶漬、鮪茶漬、天ぷら茶漬、鱧茶漬、穴子茶漬、鰻茶漬、車えび茶漬に、京都鮴(ごり)茶漬。
映画『晩春』『お茶漬けの味』は、いずれも『小津安二郎 DVD-BOX 第二集』に収録








