「“話のタネ”に食べてみた!史上最強 セレブのお取り寄せ」

南極で醤油の魔法を見た。
ドイツ船籍のクルーズ船「ワールド・ディスカヴァラー号」に乗って、南極半島周辺をぐるっと一周した。二週間におよぶ船旅の楽しみは船内レストランでの食事だ。日中、ゾディアックと呼ばれるゴムボートに乗ってペンギンやアザラシ、氷山を観察したり、各国の基地を訪問してすごした夜、旅慣れた裕福そうな欧米からの船客たちは、きちんとした佇まいでメインダイニングに姿をあらわし、優雅な時間を過ごす。シェフの料理もすこぶる美味だ。がしかし、肉か魚かどちらにするかという選択の毎日で次第に飽きてくる。そんなある日、ひそかにバッグにしのばせていた醤油をテーブルに持ち出してみる。そろそろうんざりしはじめていた定番の鮭のムニエルに、醤油をひと垂らし、そしてまたひと垂らし。う、うまい。するとその様子を見ていた隣のテーブルのドイツ伯爵令嬢が、それは本物のソイソースか、味見をさせてくれというので、醤油は隣のテーブルへ。「素晴らしい」と彼女は言った。そしてそれを見ていたそのまた隣のテーブルへ、そしてまた…と、たちまち日本オリジナルのソイソースはダイニングを一周した。その日を境に各国のみんなの距離がぐっと縮まった。醤油一滴、伝統のジャパニーズフードの底力を見た。
昭和42年(1967)生まれ、かめびし醤油17代目修行中の岡田佳苗が「伝統の家業は宝物だ」と気付いたのも異国の地だった。国際関係の仕事をめざして米国カンザス州の片田舎に交換留学していた彼女は、ジャンクな学食の味に飽き飽きして、ある日、実家の醤油を使って肉じゃがを作り親友にふるまった。感激した親友は、彼女の家が二百年以上続く老舗醤油メーカーだと知って驚き、こう言った。「それってすごい宝物じゃない!」。佳苗はその一言で目が覚めた。それまで重荷でしかなかった家業が実は宝物なのだとはじめて意識した。その晩、香川の実家に電話して、醤油に対する見方が変わったことを父に告げた。「もしかしたら醤油は私にとって大事なものなのかもしれない」。やがて大学を卒業して外務省の外郭団体である国際交流基金に就職、日本の文化を海外に伝える仕事に就いた。だが、自分は本当に日本のことを知っているのだろうか、何も語るものを持っていないのではないかと日々悩み、やがて自分のアイデンティティである日本の伝統、醤油を一から学ぶことを決意して職を辞し、讃岐の国に戻った。実は彼女の父親である16代目は、暖簾を下ろして店じまいするつもりだったらしい。醤油作りは男でなければ出来ない重労働だ、娘に継がせるつもりはない、自分の代でおしまいにしよう、そう考えていた。だが、娘が跡を継ぐといって帰ってきた。父は喜んで受け入れた。「それってすごい宝物じゃない!」というカンザスの親友の一言がなければ、今、日本の醤油の良心ともいうべき、かめびしの醤油は存在しない。
讃岐の国のかめびし醤油は、日本で唯一、伝統の「むしろ麹製法」で作られている。
かがわ市引田地区には、江戸から明治にかけて建てられた家並みが数多く残っているが、中でも目を惹くのが、かめびしの岡田家だ。創業は江戸中期、宝暦3年(1753)。蔵造りの麹室をのぞくと、むしろが棚状に14段重ねられている。むしろの上には、蒸した国産丸大豆と炒って砕いた国産有機栽培の小麦、それに麹菌だ。やわらかな天然素材の上で、じっくり4日かけて育てた麹で作る醤油は、機械で作るのとは奥深さが違う。さらにその麹に、伊豆大島の自然海塩「海の精」を加えて使った「もろみ」を、築200年以上の杉桶で、目配りと手間ひまをかけて熟成させる。通常長くて2〜3年。ところがある年、いつにも増して出来映えのいいもろみを見た16代目が、もっと寝かせて発酵させつづけるとどうなるか試してみようと、蔵の中の仕込み桶一つ、もろみをそのまま寝かせることにした。そして10年後に搾って醤油にしたところ、今までにないような味わいの醤油ができた。以来、毎年、蔵の中の桶一つ、もろみを最低10年寝かせることにした。これが古醤油十歳造(こしょうゆ・ととせづくり)誕生の由来である。ちなみに現在いちばん古いもろみは27年目を迎えているが、17代目の佳苗は、「私の代にはしぼりません。百年は寝かせます。かめびしの看板ですから」と、日本の伝統の味と心を次世代へつなぐ意気込みを語ってくれた。
さてそんな物語のある古醤油十歳造は、魔法の醤油だ。
色は漆黒、粘りがある。特に脂身の刺身によくあうと聞いて、試しに手近にあったマグロに付けて食べてみた。すると驚いた。あっという間に激安セールのマグロが、大間のマグロに変身だ。10年熟成の歳月が生み出した独特の酸味と旨味、奥に隠れてあとから顔を出す塩味、かすかに残る甘みととろみ、そしてふくよかな香りがマグロの脂と複雑に絡んで美味。17代目はふだん、カルパッチョに使っていると教えてくれた。ぶっかけうどんに古醤油を垂らしてもイケる。神田のとある寿司の名店では、かんぴょうを煮るのに使っている。六本木の日本料理店「龍吟」では、うなぎのタレなど、肝心要の時にこの古醤油が活躍していると聞いた。ためしに餅を焼いて塗ってみれば、焦げた醤油が香り立つ。魔法の一滴、さて何に垂らしてみようかと、探求心が騒ぎ出す。
<古醤油十歳造 おすすめレシピ>
◆刺身のむらさき |
特に脂身の魚にあいます。
◆ぶっかけうどんのたれ |
ゆでたてのうどんの湯をよく切って、(冷やして食べるときは、ゆでたてうどんを水にさらした上でよく水を切って)十歳造を薄めずにそのままかける。
ネギ、鰹節、おろし生姜などの薬味といっしょに混ぜて召し上がれ!
◆うなぎやあなごのたれ |
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醤油 |
大さじ3 |
一煮立ちさせて白焼きにハケでつけて焼く。何度もつけては焼いてを繰り返すのがコツ。
◆ステーキのたれ |
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醤油 |
大さじ2 |
肉に焼き色がついたら、さっと鍋肌から回し入れる。
◆お好み焼きソースに少量混ぜて!
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讃岐名物るみばあちゃんの麺で、ぶっかけうどんにとろとろのビンテージ醤油! |
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国の文化財指定も受けているかめびしの建物。 |
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竹でできた簾の上に、一畳はあるむしろを敷き、その上に麹を乗せて何段にも重ねる。2日目には、むしろから麹をすべて払い落として、また戻す。高い棚にのせたり下ろしたりするのはけっこうきつい作業だ。麹の育成期間は4日間。麹は生き物。不眠不休で温度管理をしなければならない。 |
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仕込み中の麹は、ふわふわ、わたのよう。 |
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直径約2mの醤油桶。ビンテージのもろみ熟成中! |
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17代目修行中!岡田佳苗さん |
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関連情報
◆かめびし醤油「古醤油十歳造」
180ml 5,040円、720ml 8,820円(消費税込、送料別)*要冷蔵
◆日本料理「龍吟」(六本木)
◆ワールド・ディスカヴァラー号でいく南極&フォークランド諸島クルーズ2007( 英文)













