「“話のタネ”に食べてみた!史上最強 セレブのお取り寄せ」

1990年代に、"とりあえずビール"というビールをシャレで作った。
ある番組の企画で、飲み屋で客が「とりあえずビール」と注文をしたら、キリンでもアサヒでもサントリーでもなく、番組オリジナルブランドの「とりあえずビール」がテーブルにドンと並ぶ。あわよくば一攫千金、国内シェア100%!という仕掛けだった。今にして思えば、1本17,000円くらいの法外な値段を付ければもっと話題になったかもしれないが、当時はビールにそんな値付けをすることなど想像すらしなかった。
さてそんなことを思い出させてくれたユートピアだが、これははたしてビールなのか?
ビールなのに、アルコール度数が、25度を超えるという。
ビールなのに、炭酸ではないという。
ビールなのに、冷やさずに常温で飲むべしという。
ビールなのに、とりあえずビールではなく、食後酒だという。
というかそもそもビールなのに、世界限定生産8000本で。1本17,000円なのだ。
サミュエルアダムスの「ユートピア」とは、いったいどんなビールなのか…。
噂を聞きつけ、さっそく日本の輸入元を探しだして尋ねたが、2005年の発売時にわずか200本しか輸入しなかったそうで、あいにく在庫は既に1本もなかった。そこで、この手のプレミアムビールを扱っていそうな全国の酒販店を紹介してもらい、日本中、片っ端から電話をかけてみたが、どこもかしこも1本単位でしか仕入れていないし、その1本もとっくに販売済みで、なかなか現物にいきあたらない。ようやく在庫があるという一軒の店を突き止めたが、よりにもよって前日に予約が入ってしまったという。本当かどうかは確かめようもないが、追えば追うほど逃げていく女心のような幻影のビールだ。一口でいいからどうしても飲んでみたいという飢餓感、口渇感、焦燥感が募る。
そうこうするうちに、幸いにも取り寄せ可能な1本にたどりついた。そして今、目の前にユートピアがある。思った以上に小さな箱からそっと取り出すと、黄金色に輝く銅製の特注ボトル入りだ。伝統的な醸造タンクの型を模している。高さは20cmに満たない。底にはシリアルナンバーと共に、"ザ・ボストン・ビア・カンパニー"という醸造メーカーの名前が誇らしげに刻み込まれている。
米国マサチューセッツ州ボストン。ユートピアはこの街で生まれた。
松坂投手のレッドソックス加入で注目を集めるボストンは、17世紀、英国の清教徒が入植したアメリカ発祥の地であり、独立運動のきっかけでもあるボストン茶会事件の舞台となった歴史的都市だ。ハーバードで3つの学位とMBAを取得、コンサルタントとして活躍していた大のビール党、ジム・コッチが、ザ・ボストン・ビア・カンパニーという地ビールメーカーを創業したのは1984年のこと。当時、大量生産で安くてライトなビールばかりがもてはやされ、しっかりとした味わいのビールを作っていた地方の醸造所が次々と姿を消していた。セントルイスで小さな醸造所を経営していたコッチの父も苦境に立たされていた。そんな風潮に疑問を抱いたコッチは、醸造士だったドイツ系移民である祖父のレシピを掘り起こして、これがビールだ!とばかりに「サミュエルアダムス・ボストン・ラガー」を世に送り出した。ブランド名のサミュエルアダムスとは、ボストン茶会事件の首謀者の一人でもあるビール醸造家で、独立宣言書にもサインしたアメリカ人なら誰もが知る歴史上の人物の名前だ。デビュー作の発売日はあえて「愛国者の日」を選んだ。
サミュエルアダムスは、クチコミマーケティングのお手本だ。
弱小メーカーは、大手メーカーのように広告費にお金はかけられない。そこでまずは地元のバーというバーを一軒一軒まわって、バーテンダーに試飲してもらい、本物のビールを実感してもらおうという草の根PR活動を展開した。バーテンダーに気に入ってもらえれば、自然と客に薦めるはずだ。狙いは当たった。大麦、ホップ、イーストと水だけで作るコクのある伝統の本格派ビールは、バーテンダーのクチコミでたちまち全米中に広まり、リリース半年後には、世界最大のビールフェスティバルでベストビールに選ばれるほどの人気となった。会社は創業から20年を経て、準大手と言われるまでに成長したが、創業者コッチのビジネスカードには今どき流行りのもっともらしい肩書きなど一切なく、相変わらず「醸造家ジム・コッチ」とだけある。実際、今もコッチは午前4時から夜の11時まで、ビール、ビール、ビールの生活で、早朝、醸造所で樽をチェックしたらその足で、全米のストアや販売店、バーやレストランをまわって声を聞き、さらに「ホップはビールの命だ」と、原料となる最良のホップを求めてイングランドやドイツを旅している。ほかの誰のためでもない、自分が飲みたい本物のビールを作る。コッチは根っからのビール好きなのだ。
そんな彼が世界最強のビールを作ったのは、実はユートピアが初めてではない。
1999年に発売したアルコール度数17.5度の「トリプルボック」以来、記録に挑戦し続け、2000年には「ミレニアム」で21度、2002年には「ユートピアMMII」で24度、そしてついに2005年版の「ユートピア」で25度を超える醸造酒としては画期的な快挙を成しとげた。酵母は本来、強過ぎるアルコールには耐えられないと言われているが、コッチは世界最強のビールを作るために10年以上かけて、頑強な酵母を開発した。そして、アルコール度数20度を超えると、ビールがまったく異なる別世界に突入することを発見した。
さて、問題のユートピアだ。
「みんなが勝手に思いこんでいるビールの常識を覆したい」とジム・コッチが生み出したユートピアは1本710mlで17,000円だ。ジョッキ1杯1万円近くになる計算だ。もっともアルコール度数が25度以上もあるからジョッキであおるわけにはいかない。イッキ飲みなどもってのほかだ。ということで、ワイングラスにちょこっと注いで、ちびちび舐めてみようとキャップを開けると、あらら、一瞬、熟成した古醤油の匂いが微かに…。濃厚な麦の香りだろうか。琥珀色に輝く液体はまるでブランデーのようだ。で、どれどれと、ちろっと舐めてみる。炭酸も苦味も一切ない。それどころかフルーティーでメイプルシロップやバニラを思わせる甘味がふくらむ。なめらかな舌ざわりと深い味わいだ。ビールというより、ビンテージのポートワインやシェリー、上等なコニャックと比べるのがふさわしいかもしれない。あるいは紹興酒が近いかもしれない。通常の5倍以上の量を使っているという原料は、ジム・コッチが厳選した最上級の5種類のモルトと6種類のホップがベースとなっていて、さらに高級シャンパン用のイーストを使用。シングルバレルのプレミアムバーボン「ブラントン」で有名なケンタッキーの名門蒸留所のオーク樽を使って長期熟成、上面発酵させている。おかげで馥郁たる美酒となっている。
ジム・コッチは自信をもって言う。
「それを言葉で表すことはむずかしい。なぜならば、ユートピアは、これまでに味わったり想像したどんなビールをもはるかに超えた存在だからだ。出会えたことに感謝すらするだろう」
と、ここまでいかにも見てきたような原稿を書いていると、妻が横から覗いてひとこと。
「私と出会ったことと、どっちに感謝する?」
そりゃぁ、とりあえず……。
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まるでブランデーのような琥珀色。ワイングラスを真上から撮影してみました。 |
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醸造ケトル(タンク)を模したボトルの窓を開けると、愛国者でありビール醸造家でもあったボストン茶会事件の首謀者の一人サミュエル・アダムス(1722〜1803)が乾杯! |
協力:世界バリバリ☆バリューの本「史上最強!セレブのお取り寄せ」
(アスコム刊 大好評発売中)
関連情報
◆日本ビール株式会社日本ビールは、コロナビールをはじめとする輸入ビールを中心に、定番ビールから普段なかなか手に入らない珍しいビールまで、世界各国200種類以上の銘柄を取り扱っている。限定生産のサミュエルアダムス「ユートピア」は既に在庫ゼロで、次回入荷予定もないのであしからず。いずれまたユートピアのバージョンアップ版が出ることを祈ろう!
◆サミュエルアダムス・ドット・コム
サミュエルアダムスとザ・ボストン・ビア・カンパニーの詳しい情報はこちらから!(英文)
◆サミュエル・アダムス(1722〜1803)









