第31回「今月の小僧」小瀧歩さん

始まりは一通のメールマガジン

冬のエコキャンプビレッジ

ITバブルが絶頂の頃。大阪証券取引所で「ヘラクレス」という新興株式市場の責任者を務め、20代、30代で何十億という資産を手に入れるIT長者たちを目の当たりにする。お金はあるが、過酷な労働条件の中で、体を壊し、精神を病み、家族が離散するなど、とても幸福な人生とは思えない彼らの姿を見て、「何か違う」と思っていた。そんな時、ロハス(LOHAS=Lifestyle of Health and Sustainability)という言葉、コンセプトに出会う。心にわだかまっていたものに対する回答がそこにあるように思われた。「きっと自分と同じように感じている人たちがいるに違いない」と、そんな仲間を募るべく、自身の友人たちに向けた、メールマガジンの配信を始める。
「週末は過疎村に行こう!」というメルマガが、ロハスクラブネットワークへの第1歩だった。
エコビレッジ開村

エコキャンプで仲間と宴会

東京生まれながら田舎が大好きで、夏休みには寝袋を持って自転車で北海道をツーリングするということを10年来続けていた。そんな彼としては、サラリーマンになってからの毎日の通勤電車や、長時間労働のため自宅でゆっくり過ごす時間も持てない、といった状況にずっと違和感を持ち続けてきたという。現実には仕事を辞めるわけにはいかないが、今とは違うライフスタイル、働き方があるのではないか、それを仲間と共に考えたいと始めたロハスクラブネットワーク。
実際、仲間と週末に東北や関東近県、四国などの過疎村を訪ねたり、エコツアーを開催したりと、次第にメンバーが増えてきた4年ほど前、長野県小諸市にある廃校を買わないかという打診を受ける。ちょうど「会員が集まれる拠点のような場所があると良いね、と話していたところだった」ので、購入に向けて動き出す。その過程で、組織を任意団体から株式会社に変更するなど、紆余曲折を経てようやく完成したのが、地域と首都圏のコミュニティー「エコキャンプビレッジ」。今では地元の人たちが中心となって運営し、新たに地産池消カフェの開設も目指すなど、田舎と都会を繋いで、いい形で廻り始めているという。

縁(えにし)

エコキャンプビレッジで間伐作業中

エコビレッジがようやく形になってきた頃、大証ヘラクレスから転職したライブドアグループ弥生株式会社のLBOも完了。それを機会に「ライフスタイル・農業支援・地域活性化ビジネス」を目指して独立する。
そこへ、三重のある企業家から伊勢・志摩を舞台にした事業の話が来る。伊勢志摩の自然を活かしたホテルビジネスで、小諸?伊勢志摩?自宅のある横浜と「3地域居住」を続けながら実現に向けて動き出したが、これは残念ながらうまくいかず断念せざるを得なかった。しかし、長野は父方の、三重は母方の故郷であり、全く偶然に、しかも続けて、長野と三重から事業の話が来たことに不思議な縁を感じるという。
元々の自然派志向も、子供の頃、母方の故郷三重で過ごしたことが大きいというが、大の田舎好きは、潜在的に両親から受け継いだものなのかもしれない。
農業を仕事に

家族も一緒に農業

ロハスクラブネットワークの活動を通じて、またエコビレッジ開設に動く中で、その活動は自然に農業へとつながっていった。そこで、地域の生産者などとの交流を通じて豊かなライフスタイルとは何か、食の安全、環境問題、豊かな自然など、これまで目を向けることのなかった事柄について考えるきっかけになればと、都会で働くビジネスマンを対象に「六本木農業倶楽部KU」を立ち上げ、特別栽培による米作りも始めた。

イタリアのオーガニック化粧品工場

一方、現在携わるオーガニック化粧品事業でも、素材となるハーブを生産する農家との接点が一番重要なところ。現在はイタリアピエモンテ州の契約農家が育てたオーガニックのハーブを使って製品を作っているが、いつかは、信州小諸の自家栽培ハーブを使った日本生まれのオーガニック化粧品を提供できればと考えている。農業を通じて、「異地域」「異業種」「異世代」交流を行うことで、自分、家族、仲間たちのライフスタイルまでもが大きく変わってきたと実感している。奇しくも、ライフワークのロハスクラブネットワークでも、また純粋にビジネスとしても、今、農業に深くかかわることになってきた。

目標はロハスな生活

伊勢志摩エコツアーにて

今さらと思われるかもしれないが、目標はやはりロハスな生き方。現実には難しいのを実感しているからだ。皮肉にも、農業をテーマとした会社の仕事は忙しく帰宅は毎日遅い。子供たちとの時間もほとんど持てないので、帰ると子供たちが遊んで欲しいと寄ってくるが、それを遠ざけてロハスクラブネットワークの連絡事項などの業務も行なわなければならない。理想の生活とは正反対な現実に悩むという。
せめて週末や休暇の時には、家族を連れてのアグリツーリズモやエコツアーに精を出す。毎日理想の生活を送るのは難しくとも、心に留めておけば、いつかきっと理想にあった生き方ができると信じて、農業と自然をテーマとした仕事漬けの日々がもうしばらく続きそうだ。

インタビュアー:堀込多津子

プロフィール

小瀧歩(こたき あゆむ) 小瀧歩(こたき あゆむ)
ロハスクラブネットワーク代表。
金融機関、外資系コンサルタント会社を経て、新興市場大証「ヘラクレス」の立ち上げに参画、ヘラクレス本部長就任。06年ライブドアグループ弥生株式会社経営企画・内部統制・CSR担当執行役員に就任。 M&Aプロジェクトの責任者として710億円のLBOを実現。08年3月弥生を退社し独立。 現在は、株式会社大地を守る会との業務提携により、ファーマーズマーケット「小諸エコキャンプビレッジ」、会員制農業実習「六本木農業倶楽部KU」のソーシャルベンチャービジネスを模索中。

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