第35回「今月の小僧」 辻正雄さん

ギターからキーボードへ

ロック少年の宝物 ビートルズモデルの
ギターとベース

ビートルズに憧れるロック少年だった辻さん、1982年、大学2年生の時に4人組のロックバンドでレコードデビュー。大学を中退し、プロのミュージシャンとして歩み始めるが、プロの世界は厳しく、当然レコードはすぐに廃盤。そこから長い下積み生活が始まる。昼間アルバイトしながら夜は小さなライブハウスで演奏したり、スタジオでデモテープを作ったりという暮らしが続いた。 25歳を過ぎて、そろそろちゃんと仕事をしなければと、知人の紹介で音響関係の仕事を始めるが、「好き」になれない。「なんでこんなことやってんだろう」と思っていたところに出会ったのが、当時オフィスに入り始めたパソコンだった。まるで新しいおもちゃを手に入れたように、ギターからパソコンのキーボードへとのめり込んでいく。時代はパソコン通信からインターネットの世界へと向かう時期、これをビジネスにしよう決めた。そして1999年、一人でWEB制作の会社を立ち上げた。
運命の出会い

Sweet'n Smileのウェブサイト

オフィスを構えたら資金が底を付くようなスタート。当然仕事もおいそれとは入ってこない。「この時代に?と、言われそうですけど、妻は実家に米を貰いに行ってました」。これではダメだと猛烈に営業に駆け回った。そんなある日、営業の合間に立ち寄った新宿のデパートの催事場で、知的障害者の人たちのおかし屋さんに出会う。「僕の長女も知的障害があり、知的障害者の皆さんが作るクッキーやパウンドケーキにとても興味を持ちました」。そのおかし屋さんは、当時の日本の知的障害者支援としては画期的な試みをしているNPO法人によって運営されていた。
コンセプトに賛同し、「なんとかお手伝いしたい」と、ボランティアで自社の事業であるホームページの制作を申し出る。藪から棒の申し出に当然返事はない。諦めずに何回も連絡を入れ、思いを伝える内に、ようやくホームページ制作を引き受けることになった。 「NPOぱれっと」と、そこが運営する「おかし屋ぱれっと」とのこの出会いが、いま新たに取り組むメーカーとのコラボ企画の一つ「おかし屋ぱれっと x Sweet'n Smile」(http://www.palette-ss.net/)として結実し、知的障害者の自立支援や雇用創出に向けた大きな一歩を踏み出すきっかけとなった。
Sweet'n Smile(スイーツンスマイル)は、知的障害者支援のスイーツ開発をコンセプトに掲げ、まずは、現在のスイーツビジネスを成功させ、今後、各地域、行政、NPOなどにこのコラボモデルを展開して、各地域の知的障害者の雇用を促進することを目的としている。そして、このコラボ企画を推進するのがTREEDOMだ。
TREEDOMって何?

大好きなキャラクターグッズに囲まれて

ウェブ制作の仕事が軌道に乗った頃、サイトを作るだけでなく実際に自分たちでもECをやってみたい、そのノウハウを得たいと思うようになった。ネットショップ専門の会社を設立し、楽天やYahoo!ショッピングに出店する。ネットショップを運営することが目的なので、売るものは何でも良かった。そこで、妻や3人の娘たちにも呆れられるほどキャラクターグッズが好きだったこともあり、それを商材にした。 しかしこの事業はあえなく失敗。「高い授業料だったけど、致し方ない」と会社を畳もうとしていたところに、友人たちから待ったがかかる。いずれも仕事を通じて知り合った会社の社長さんたちでプライベートでも仲良くなった、物販や物流そしてITの専門家の3人。 「高い授業料を払ったんだから、それは取り戻さないとね」「どうやって?」「メーカーになったら」「それは無理でしょう」というような話が繰り返され、「自分たちだけでモノを作るのは無理だけど、メーカーや職人さんと一緒につくることならできるんじゃないか」という結論に達する。
子供の頃、よくダンボールで作った秘密基地で遊んだ。アメリカ生活が長い友人たちは、「アメリカではダンボールで秘密基地は作らない。木の上にツリーハウスを作る」という。子供たちの間で、ツリーハウスは、TreeとFreedomをかけてTREEDOMと呼ばれる。TREEDOMには、気の合う仲間しか入れない。
「TREEDOMにあがってくれるメーカーさんや職人さんたちと一緒にモノを作り、それを販売する」というコンセプトで、会社名もTREEDOMに変え、友人たちの協力を得て再出発をすることになった。
TREEDOMへようこそ!
新会社の方針が決まり、「コンセプトに賛同して、一緒に木の上にあがってくれるところ」として最初に候補にあがったのが「ぱれっと」だった。
「NPOぱれっと」に連絡すると、待ってましたとばかりに話が進んだ。空前のスイーツブームの中で「おかし屋ぱれっと」も大きな転機を迎えているのだという。まさに「TREEDOMへようこそ!」だ。
TREEDOMはパティシエを派遣し、商品開発やブランディングを担当。「おかし屋ぱれっと」の従業員がお菓子を作るというコラボレーションで、6種類のパウンドケーキが作られ、すでに販売されている。人気のレストランからも取り扱いたいというオファーがくるなど、順調な滑り出しだ。 これからスイーツの売上が順調に伸びて、今の工場だけでは生産が追いつかなくなり、新たな工場を日本各地に展開できるようになれば、そこに住む知的障害者の雇用を創出することができる。
新宿のデパート催事場での出会いから約10年、コツコツと積み上げてきた互いの誠意と信頼が、大きな成果をもたらす日も近いかもしれない。
ロックに熱中し、パソコンにのめり込み、キャラクターグッズを愛す。思い込むとトコトンの人なのだと思う。その熱意と浅草生まれの下町っ子の人懐こさが、これまでかかわってきた人たちとの長い協力関係を育んできた。きっと「おかし屋ぱれっと」とのコラボレーションもさらに息の長いものにしていくに違いない。

インタビュアー:堀込多津子


プロフィール

辻 正雄(つじ まさお) 辻 正雄(つじ まさお)
株式会社TREEDOM代表取締役 株式会社アーティストユニオン代表取締役
大学在学中にロックバンドでレコードデビュー。大学を中退しプロとして活動するが、長い不遇の時が続く。ついにミュージシャンを諦めて就職。そこで出会ったのがパソコン。インターネットが急速に発展する中、ウェブ制作を中心とするアーティストユニオンを立ち上げ事業を拡大。10周年を迎えた今年、EC事業を新たなコンセプトで展開するTREEDOM代表としての活動も開始。知的障害者自立支援の「NPOぱれっと」が運営する「おかし屋ぱれっと」と共同開発したブランド「Sweet'n Smile」のパウンドケーキを販売中。
辻さんは、小僧SNS村に参加しています。ニックネームは「RICK-46」さん。

ページの先頭へ