稲次哲郎さんは今年で72歳を迎えられる「スーパー地中海小僧」です。毎年4月から9月までの半年間、奥様の千恵子さんとご一緒にご自身のクルーザーを操縦して地中海を巡る旅をされています。一見優雅に聞こえますが、地中海といえども航海は危険がつきもの。荒波による転覆、座礁、船体の故障やトラブルなどのリスクを常に抱えながらも、気象情報、海図、GPSなどの情報をフル活用して慎重にかつ計画的に航海されています。

稲次さんは元三井物産の商社マンでした。仕事一筋40年だった稲次さんが、なぜ突然職を辞してクルーザーを買うに至ったのでしょうか。それは単なる道楽の思いつきではありません。目的に対して真摯に打ち込む姿勢がなければ成し遂げることはできません。船舶免許の取得、高価なクルーザーの取得費用の捻出、ご家族の説得、旅の準備など、様々な壁と困難を克服して初めて獲得できる「偉業」なのです。

そしてその目的とは、紀元一世紀もの昔、キリスト教をローマ帝国に普及するのに最も貢献したと言われる「聖パウロ」の足跡を辿ることです。稲次さんは敬虔なクリスチャンでもあります。キリスト教に限らず、かつて宗教を伝道することは生命を賭する危険なことであり、航海の危険だけなく、人々の迫害や偏見とも戦わなければなりません。稲次さんはその足跡を辿ることで改めて聖パウロの偉業を実感されています。

その一方で、船旅は様々な人々と出会い、交流する絶好のチャンスでもあります。寄航するマリーナ毎に土地の風情、人情と触れ合うことができます。そこは社会の序列や社交辞令とは無縁の世界です。しかしながら、その出会いを繋ぐ稲次さんの語学力と人柄は見逃せません。英語はもちろんのこと、スペイン語、フランス語も不自由なく操られるだけでなく、「Ted」という愛称で誰とでもすぐに打ち解ける天性の人なつこさ、おおらかさはまさに天賦の才というべきでしょう。



最長記録250浬無寄港・35時間連続運転でヤルタに到着

船上の稲次哲郎・妻千恵子

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