人生は常にアドベンチャー
第4ステージ終了後、最終日のチャレンジ・ファイナルに進出できるのは、総合成績で上位4人のみ。そのスタート順のみならず、スタート間隔も合計ポイントに従って決定される。よって、私のこのステージでの目標は、あくまでもパートナーのディマが1ポイントでも余計に稼げるように、全ての面で彼をサポートすることに尽きる。ましてや、いきなりオープニング・レースで想定外の7位になってしまった我々としては、総合1位といえども守りのレースをするわけにはいかない。最初からバリバリに攻めていかねばならないのだ。
リモート初日、ウユニ塩湖南部が水没のため、大幅な迂回を余儀なくされ、競技開始が遅延。5番目スタートの我々にはいきなり不利な展開となった。しかし、そういう状況を克服してイェロー・ジャージをキープしてきたディマは、案の定、とんでもないことを考え出した。スタートから近い競技から始め、最後のコンパルソリー競技へ向けて南下するルートが順当なのだが、それだと我々はどうやってもコンパルソリー前に2種目しかこなせない。ディマの案は、舗装道路を使って一気に南下し、逆回りで競技地を通過しつつそれぞれの競技にかけられる時間を予測計算、その上でペナルティをうまく使ってその時間割どおりに切り上げて3種目をこなそうというのだ。素晴らしい!勿論、かなり体力的にプッシュしなければならないが、実現できたら凄い!
まずは計算どおりに2種目をこなし、3番目の山岳ランに入った。この競技では、ペナルティが設定されていないので、純粋に計算した時間内に走り切らねばならない。ディマの方がランは速い。ふたりの腰のベルトをロープで結び、ディマが私を牽引しながら走る。空気は薄いし、脚には乳酸が溜まりまくっていたが、ここで遅れてコンパルソリーをミスしたら、ディマは1位から大幅に順位を落とす可能性がある。死ぬ気で走った。そして、見事に計算したタイムより僅かに早くゴールできた。やった!これでディマの総合1位はキープできたぞ。ゴールの草原に大の字になってぶっ倒れて、しばし休憩を取り、意気揚々と最後のコンパルソリー競技に向かった。
ところが、悪魔の仕業としか思えない最悪の事態が待っていた。ディマがディバーを紛失してしまったのだ!そんなバカな!狂ったようにありとあらゆるところを探しまくったが、どこにもない。あまりの絶望感に吐き気がした。ディバーが無ければポイントは記録されない。あんなに頑張ったのに、零点!泣きたい気分だ。毎回ディバーはあるかと確認していたのに、なぜ、今回だけしなかったのか。こういうミスを防ぐことこそが私の役目だったのに、ああ、私の責任だ。もう私の10位以内なんて不可能だ。それどころか、ディマも決勝に残れないかも知れない。そんなの許せない!だったらどうする?残された道はただ一つ。残りのレースに集中し、ひたすら走るのみ。ネバー・ギブアップだ。とにかく心をリセットしなければ!最終日のためにとっておいたビールを開けてディマに渡し、レース中あまり話さなかった昔のことや家族の話をした。そして、一番の妙薬はさっさと寝てしまうことだ。朝になれば新しい一日が、新しいレースが始まる、そこから勝負だと思えばいい。
翌朝、ふたりとも吹っ切れていた。まさに新たなスタートだ。ネバー・ギブアップ、死ぬ気で走ろう!崖を登り、走り、バイクを走らせ、時には担いで登る。ディマは容赦なくガンガン引っ張る、私は遅れまいとプッシュし続ける。標高は4000m、1種目終わるごとにぶっ倒れた。見かねた介護班に止められる場面もあった。が、大丈夫、とすぐに起き上がって次の競技に向かう。そして5種目をこなすことができた。それどころか、200mの標高差の山岳ランではトップ・タイムだった。これでディマの決勝進出が見えた。夕方、5000m級の山々を見渡す大平原のキャンプにたどり着いたとき、カラダはガタガタだったが、ココロは晴々としていた。そうなのだ、我々アスリートは、いかなる状況にあろうとも、レースに集中し、いいレースができてこそ、心から笑えるのだ。ミスは必ず起こる。それを引き摺っても何も得るものはない。どんな困難でも、より大きなチャレンジを自らに課すつもりで立ち向かえば、何らかの道は開けるものだ。ネバー・ネバー・ネバー・ギブアップ!
リモート最終日、我々は大胆な賭けに出た。全6種目完全制覇を狙うのだ。全ての競技を1分単位でコントロールし、全て想定時間より早くゴールできれば、計算上はギリギリ可能とみた。そうすれば、ディマはまず間違いなく決勝に進出できるはずだ。最初の競技で幸先良くマーティン達に追い付いた。次の2種目で、彼らを追い抜いた。全種目制覇を達成するための難関は4番目のキャニオニングだ。ここで想定タイムより8分短縮しなければ次の競技のスタートに間に合わない。マーティン達に抜かれたものの、あと2分遅れたらアウトというギリギリでゴール、これで全種目達成がほぼ見えた。6番目のコンパルソリー競技には指定時刻1分前に滑り込んで最後までハラハラドキドキしっぱなしだったが、ついに念願の全6種目制覇を成し遂げた。これでディマの決勝進出が確定した。とんでもない逆境を乗り越え責任を果たせたという達成感は最高だった。
最終日のチャレンジ・ファイナルには、大方の予想通り、マーティン、クリス、ディマ、JBが勝ち残り、選手みんなの賞賛と尊敬を勝ち取ってマーティンが優勝。彼とは第2ステージを共に戦っただけに、自分のことの様に嬉しかった。私自身は、さすがにリモート初日の零点が響いて、不本意ながら15位に終わったが、記憶に残る劇的なレースを戦ったという充実感は決して数字では表せない。
ついに終わってしまった!4週間ぶっ続けのレースはとてつもなく長いと思ったが、あっという間だった。毎日毎日が新しい経験の連続で、ココロもカラダも非日常の感動に満たされ、世界が広がった。とかく効率とか利益とか有益性とかが優先する日常を離れ、本質的に全く無意味なことをこれだけの規模でこれだけの人と金と時間をかけて徹底的に楽しんでしまう。純粋な好奇心に支えられた究極の遊び心、それが感動を生み、やがて文化となる。それこそが、スピリット・オブ・アドベンチャーの本質だろう。私にとって、これからの新たなチャレンジとは、この遊びの文化を私ならではの方法でより多くの人々に広めることに違いない。
「テクノロジー」+「遊び心」+「美意識」=「夢」+「希望」+「チャレンジ」
新たなチャレンジを求めて、ネバー・トゥー・レイト、人生は常にアドベンチャー!

関連情報
ランドローバーG4 チャレンジ
世界で唯一の四輪駆動車専業メーカーであるランドローバー社が、そのブランドアイデンティティでもある「スピリット・オブ・アドベンチャー」を象徴するイベントとして開催する地球規模のアドベンチャー競技だ。2003年大会に続いて2回目の開催となる今回は、タイを皮切りに、ラオス、ブラジル、ボリビアの様々な大自然をステージとして2006年4月末から4週間に渡って開催された。世界中の18カ国から1名ずつ選抜された18名の冒険者が、ステージごとにそれぞれ異なった国からのパートナーとチームを組んで、多様なアウトドアスポーツとオフロード・ドライビングにチャレンジした。






