小僧の庭
■地主さんの思い
明治初頭から別荘地として拓けた建設地は、広い庭園のあるお屋敷の緑が豊かな街並みを形作ってきた街です。ここに古くから住む一人の地主さんが、相続税のために土地が切り売りされ、由緒ある庭やその緑が失われることに危機感を覚えました。「なんとか庭や緑を残せないか」地主さんのその思いから、このプロジェクトはスタートしました。
■庭の来歴
もともとこの庭は、明治時代に第11代、第13代、第15代の総理大臣を務めた桂太郎の別荘の庭として明治の終わりごろに造られました。その頃は、日本庭園に新しい流れが生まれた時代でした。京都でも、それまでの寺院や貴族の庭園に見られるような、すべてを人工的に作りこむ庭造りから、できるだけありのままの自然を活かす、里山のような庭園が作られはじめました。この庭もちょうどその頃に最初の庭が造られたようです。
その後、現代の地主であるN氏の先代が昭和の初めに購入し、庭も改築されました。この時代になると、見る庭から使う庭へとその目的が変わり、戦争の足音の聞こえる時代を反映して、鉄棒が置かれたりしています。
そして今回が、3度目の庭造りとなりました。
■庭造りのコンセプト
1. 由緒ある庭を引き継ぎ、現代生活の中で活かす。
これだけの庭園を、個人で再生し、維持しょうとすると数千万円の費用がかかります。しかし同じ価値観をもつ人と共同でこの庭を持つことにすれば庭を引き継ぐことも可能となります。その場合、単純に庭をそのまま残すだけでなく、この庭がそこに暮らす人たちの生活をより豊かで快適にするツールとして機能するように、生活の中で活かすことを考えました。
2. 庭園を「空調設備」と位置づけ、建物と庭を相互に連携させる。
樹木により夏の強い陽射しを和らげ、根が地下水を汲み上げて葉から気体を放出することで冷気を生成するなど、「環境共生」の考えに基づいた庭造りと目指しました。水の流れを作ることで、風の流れも生まれました。
■施工
庭を再構築するために全体を掘り出すと、過去2回の庭造りを手がけた職人の技量が分かります。今回参加した職人たちに、過去の職人技に対する熱いライバル意識が芽生え、様々な技術が駆使され、多くの創意工夫が検討、実行されました。
時として、全体のバランスの中で却下したアイデアや技もありましたが、職人としての心意気をひしひしと感じる素晴らしい現場でした。
・ 石はすべて手作業で動かす
今回の庭では、すべてもともとそこにあった石を使いました。石はすべて手作業で動かしましたが、3つだけどうしても動かせない石があり、それはそのまま現在の庭園に活かしました。
・ 新たに植えた木は5本
樹木も、ほとんどは既存のものを活用し植え替えました。中には、最初の庭園の時にはなかったと思われる、鳥が植えた木が2本ほどあり、屋上に届くほど大きく成長していましたが、それもそのまま活かしました。新たに植えた木は、中層の空間に配されたもみじが2本などです。
・ 支流を作る
庭の頂点から始まり、外周を巡るように流れる本流とは別に、細い流れを作りました。これは当初の計画になかったことで、職人の皆さんには無理を言いましたが、このように、庭を造ることは、次々とより良いアイデアが出てきて、その場その場で決断していくことが多いのです。
・ 180度横からの視点も考える
当初居住棟の正面からの視点で庭を考えましたが、コモンハウスが完成し、そこからの視点も重要な要素となりました。中心にさるすべりの木を移植し、180度横から見た場合にも庭の正面になるように配置しました。
■完成後への期待
この建物は、企画コーディネイトを行った(株)チームネットが提唱する「コミュニティ・ベネフィット」という考え方を基本として計画されました。これは、コミュニティの利益の最大化ではなく、そこに暮らす個人の利益の最大化を目指すことを第一の目的とし、そのためにコミュニティや周りの環境をより良いものにしていきましょうという考えです。
自分のために、自分の庭を使いきる、活かしきっていただきたいと思います。その結果、この住宅に住む方々が自然にコミュニティを形成し、力を合わせてこの庭を守っていってくださると期待しています。
また、この建物が建ったことにより、ご近所の方々にも、庭や緑に対する思いが大きくなってきたようです。これを機会に、地域全体で緑をまもる取り組みが始まれば、たいへん嬉しいですね。

(左上)動かせなかった3つの石
(左下)今回植えたもみじ
(右)元々あった2本の赤松。その間に見えるのがさるすべり。
関連情報
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住む人のライフスタイルに合ったガーデンデザイン。
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