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ライフスタイル 今月の小僧 第8回 浜潤一さん

毎日が「ときめき」。

ついこの間まで、鋭い眼光で“ホシ”を追い続けていた刑事が、物腰柔らかな、エレガントとさえいえる口調でスーツの着こなしについて語る一一。

浜さんの話は、学生時代のファッション歴にはじまり、命を張った刑事時代の武勇伝、ワードローブの中にあるとっておきの一着、賑やかな交友関係まで実にさまざま。こちらはひたすら大笑いしたり、感動したり、納得したり…。中でも、とりわけ彼のファッションに関する知識とこだわりは筋金入りだ。スタイリストなのだから当たり前と思うかもしれないが、彼の場合は根っからのお洒落好きが高じたものだけに、話を聞いていても実に奥が深い。

子どもの頃からいつもちょっと目立つ存在。衣替えの時期をワザとずらしたり、学生服のズボンを自分で細身に縫い直したり(笑)

小学生の時からファッションに目覚めたという浜さん。なぜか髪は父親のグリースできっちり7:3、こっそり腕時計まで持ち出し、大人風?の出で立ちで登校したこともあったとか。

とにかくいつも目立つ存在。高校時代にはアルバイトに精を出し、厚木のベースキャンプ周辺に軒を連ねていたテーラーメイドの店で、スーツ、シャツ、靴に至るまでオーダーしていたという根っからのお洒落人間だ。
 「高校時代は学生服もオーダーメイド。革靴はピッカピカに磨いて、髪はビシーッっとリーゼント、ズボンのアイロンも完璧!それでいざ出陣っていう感じだったね」
 「とにかく毎日靴を磨くことに命を懸けていた(笑)。ヘアスタイルが決まるまでは学校に行きたくないし、電車でもズボンがシワになるから座りたくない。俺だけじゃなくて周りの友人も皆お洒落でね。最近の高校生が靴のかかとを踏んで履いたり、地べたに座ったりしている様子なんて、ホント信じられないよ」
 浜さんの朗らかな人柄が織り成す軽妙なトークはぜひ、ファッションのアドバイスとともにライブで聞いてもらいたいところ。というわけで、今回はなるべく彼のカラーを楽しんでいただけるよう、会話中心の記事とした。

父の影響で刑事の道に。
お洒落な名物デカとして警視庁に君臨!!

大学は工学部に進学。が、実験に明け暮れる毎日に何かむなしさを感じ、大学を中退。父親の影響で刑事の道を選ぶ。
「そもそも自分では文系のつもりだったのに、何を間違えたのか工学部に行っちゃった。白衣なんか着ちゃって、フラスコ持ってね。これ、俺じゃないよな、って思ったね(笑)」

数年の後、彼は桜田門にある警視庁本部の刑事として第一線において陣頭指揮にあたることとなる。当然!?、ここでもちょっと目立つ存在であることに変わりはない。というのも、通常刑事さんたちが着ているスーツはパターンオーダーの支給品。それをすべて無視して細身の洒落たスーツを纏い、当時は禁じられていたヒゲをただ一人はやしていたというのだ。とはいえ、本業では他の追随を許さない活躍で警視総監賞も数知れず。上司も黙認せざるを得ない状態だったというから、周囲はさぞかし扱いに困ったことだろう。

「だって俺から見たら生地は良くないし、採寸も警視庁の刑事全員分を一度にやるわけだから、細かい注文も付けられない。だから全部自分で買ったスーツで通しました。仕事はきっちりやることをやっていたし。俺は上から押さえつけられるのが大嫌なタイプだから、俺の決めた捜査方針に口出しする上司はいなかった。でも、その分プレッシャーは常にあったよ。だから事件が解決したとき、仲間と飲む酒は格別だったなぁ」

と、ここまでが彼の、仕事とファッションの半世紀。まだまだ紹介しきれない面白エピソードもたくさんある。コンテンポラリースーツ、通称コンポラにハマっていた時代、全身ミリタリールックで米軍のジープを乗り回していた時代と、スタイルに関する凝り歴はハンパじゃない。
しかし浜さんのさらに“ときめく”人生はここからスタートするのである。

31年の警察人生に終止符を打ったのが一昨年。とにかく50歳になったら引退しようと決めていた

「なぜかというと、退職した先輩たちを見ていて、どこか輝いていないというか、少し寂しいものを感じたことがあるんだよね。健康管理のためにアルバイトをしているとか、小遣い稼ぎをしているとか…、ちょっと夢がないなあと。そこで自分はあえて約10年残して退職して、次のステージを見つけたいと考えたんです。でも、いざ辞めたはいいけど自分の好きなこと探しって難しくてね」

浜さんがまず考えたのは靴の修理屋だ。駅やデパートの一角にある靴修理コーナーにヒントを得て、とりあえず銀座の地下鉄にある靴修理屋を1日中“張り込んでみた”。
「思ったのは靴を預けてからの待ち時間がけっこう長いこと。その他いろいろ調べて、あれだけのスペースで年間かなりの売り上げがあることも分かった。そこで、宅配の靴修理屋を始めようと考えた。オフィスを訪ねて、修理する靴を朝受け取って昼休みに届けるとかね」
丸の内近辺に早々に事務所も見つけ、場所も見に行った。最後の仕上げは浅草で靴修理の講習を受けること。
「うーん、これはちょっと違うかなと(笑)。自分の靴は磨いていて幸せだったけど、人の靴磨いていて俺はここで生きがいを見つけられるかなと、考え込んでしまった。それで靴修理屋は終わっちゃった」

次にチャレンジしたのは、これまたまったくジャンルが違う飲食業の世界。ある時、知人が経営する店で食べた蕎麦が抜群に旨かったことから話は始まる。
「この蕎麦どうしたの?ってマスターに聞いたら俺が打ったんだと言う。それじゃあ俺にも教えてくれと。打ってみたら抜群に面白かった。警察だから剣道をやっていたんだけど、なんていうのかな、蕎麦打ちに武士道が出てきちゃった(笑)。ううむ、ヨシって感じで気合が入っちゃったんですよ。もう俺の第二の人生はこれしかないと」

面白いと思ったら、即、とことん実行に移すのが浜さんの性分。斯くして黙々と蕎麦打ちの修業がスタートした。すると、話題の多い人には自然に次々と面白い話が舞い込むようで、  「蕎麦打ち修業も佳境にさしかかった頃、大分の由布院に別荘を持っている友達から連絡があった。別荘で夏場だけ食事処をやったらそこそこお客が入ったと。試しに潤ちゃんもやってみたらと言われてね…、行っちゃったんですよ(笑)」
飲食業に関してはまったくのシロウトだった浜さんが、なんと突然、蕎麦屋の主人デビュー。しかもただの蕎麦屋ではない。蕎麦懐石全15品コースを出す本格的な料理屋だ。さらに料理から給仕までたった1人。

「ずいぶんと山の中でね、観光客と別荘客がたまに寄ってくれるようなところ。なかなかお客が来ないから、障子を少し開けて一日中じーっと山道を見ている。刑事時代の張り込みを思い出しちゃったよ(笑)。でも何と言っても1人でしょう、大変な思いをして2ヶ月間やり遂げた。そしたら、やっぱり蕎麦じゃねえよなぁと(笑)。すごく貴重な体験だったけど、俺って本当に“食”がやりたいのかなと思ったら、これも違ったんですよ」

試行錯誤の末、たどり着いたのはやっぱりファッションの世界。

「そこで一度原点に立ち返って、自分が今まで何にいちばんお金を使ったか、自分が朝まで話していても飽きないものは何だと考えたときに思ったのが、ファッションだった」

刑事を辞めたばかりの頃、スタイリストをやったらどうかと勧められたこともあるという。でも当時は、好きなファッションをビジネスにできるとは少しも考えていなかった。
 「これまで仕事としてまったく考えたことのなかったファッションについて調べはじめたら、パーソナルスタイリストの学校が日本で初めてできたことを知った。迷わず行こうと思いましたね。自分ではファッションは大好きだったし、知識も十分あると思っていたけど、特別な訓練を受けたわけではない。プロになるのであればもっと幅広いジャンルや歴史なども見ておかなければならないと思った。自分自身の仕上げというか、自信をつけるために必要だと考えたんです」

週末のスクールに通いながら、パーソナルスタイリストという肩書きで活動を始めて数ヶ月。現在は会社の経営者等、特定少数の顧客に対し、ファッションのコーディネートを行っている。
スタイリストとしてのこだわりは、とうかがうと
「その人の魅力を最大限に引き出すことはもちろん、時には予想外の“素敵”を発見したい。世の中に2つと同じものがないといわれているのが、個性。オンリーワンです。そのためにはカウンセリングがものすごく大切だと思う。例えるなら家づくりと一緒だよね。その人の人となりを知らなければ本当にマッチしたものはつくれない」との答え。また、
「社会性とか環境、仕事、どの辺が妥協点か、とかいろいろあるわけですよ。例えば俺がピチピチの細いパンツはいて警視庁に入って行ったらやり過ぎでしょう(笑)。でも寸胴は着たくない。頃合いのいい所を見計らって微妙な細さにするんですよ。そういう“絶妙さ”も大切にしたいポイントです」とも話してくれた。

テーマは“ときめき”。
 お洒落をすると、楽しくなって心が躍る。 楽しさは素敵な笑顔となって輝く

「ぜひともスタイリングしたい人たちは50代、60代のいわゆるライフスタイルシーカー(LIFE STYLE SEEKER)と呼ばれる人たち。社会の中で影響力のある彼らがもっともっとお洒落になることで、お洒落に関心を持つ男性も増え、日本人男性全体のお洒落度も底上げされると思う。若者も憧れる粋なお洒落人をもっと増やしたい。ちょいワルなんて言わせないですよ(笑)真の大人だけが醸し出せる男女の色気。それが俺の得意なスタイルだね」



上:厳選した洋服だけを揃えたワードローブ
下左:スーツは内側にこだわる
下右:今一番お気に入りのコート
中央:当時のミリタリールックは今も健在(写真:浜さん提供)



インタビュアー:下川原和代 / 写真:笠原修一

浜潤一 さん

浜潤一(はま じゅんいち)

パーソナルスタイリスト。
1954年神奈川県生まれ。前職は警視庁本部の刑事という異色の経歴の持ち主。2006年、50歳を迎えたのを節目に31年間の警察人生に終止符を打ち、パーソナルスタイリストとして第二の人生を踏み出す。現在は会社経営者など特定少数のゲストを対象に、フリーのスタイリストとして活動中。

小僧comアドバイザリーボードメンバー



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