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ライフスタイル 今月の小僧 第15回 高橋美江さん

絵地図師でプロの散歩屋を自認する、グラフィックデザイナーでイラストレーターの高橋美江さん。「真面目に不良」は彼女自作のキャッチフレーズです。そんな彼女と一緒に散歩をしながらいろいろとお話を伺いました。美江さんからは、彼女の人生を表現するキーワードがポンポン出てきます。そんなキーワードを切り口に、下町気質のあけっぴろげな性格と、一方でタフなプロフェッショナルとしての顔も持つ彼女の、これまでとこれからをお伝えします。

これがプロの散歩屋の技なのよ

道の先に、「鳳明館 森川別館」という看板と、こんもりとした植え込みの陰に日本建築が垣間見えてきた。「そのまま、森川別館を目指して歩いてね」と美江さん。
この日、私たちは、彼女が担当するNHK「こんにちはいっと6けん」という番組の「とっておきTOKYO便」(オンエアは9月5日に終了)コーナーの下見に本郷界隈を散歩しているところ。本郷通りを目前に、そろそろこの散歩コースも終点に近づいていた。 その森川別館の前にたどりついてほっと一息をついたとたん、何気なく振り返った私の目の前に、木造3階建て、黒ずんだ板張りの大きな日本家屋が圧倒するように建っていた。
本郷名所のひとつ下宿屋「本郷館」だ。
その大きさに圧倒されていると、「ウフフ、これがプロの散歩屋としての技なのよ」。 確かに“もうすぐ行った左手に、本郷館の大きな建物が見えますよ”と言われてその建物を見るよりも、振り返ったらそこにドーンと在るほうが、どれだけインパクトが大きいか。それを計算しての森川別館への誘導だったのだ。

絵地図を見せたら散歩屋になっちゃった

2004年の年末、とあるパーティに参加する。そのパーティに誘ってくれた知人は司会役で不在。ほかに知合いはいないが、それでも全く臆するところのないのが彼女。たまたま隣に座った人に自分の作った絵地図を、自己紹介代わりに見せた。当時NHK文化センター横浜教室の支社長だったその人から、年明けにぜひ会いたいと言われ、まち歩きの講座開設を依頼される。4月開講で、2月に募集をかけたらすぐに25名の定員に達し、キャンセル待ちまで出る大盛況。今では、横浜教室で2つ、青山教室で1つと3つの講座を受け持ち、常にキャンセル待ちがいるという状況で、立派なプロの散歩屋となった。
まち歩き、そして散歩を楽しむコツは「そのまちに暮らす人と話しをすること」という。それが、講座に参加する人たちがなかなか辞めない理由でもあるとのこと。ただまちを歩くだけでなく、その景色の中で暮らす人たちの生活まで感じられることが、まちをより活き活きと見せているのだろう。
この日も、通りすがりの銅版張りの古めかしい事務所に尋ね入り、「築100年以上も経つんだ、この建物」と聞き出していた。下町育ちの屈託なさが、警戒感もいやみも感じさせないからすごい。

「絵地図」
写真をクリックすると拡大します。

足りないのは緊張感と達成感だった

美大を卒業し、難関を突破して映画会社のデザイン部門に就職。映画が好きで、学生時代は1ヶ月で30本近くの映画を観ることもあったという。
数年後に結婚して退職。3つ違いで二人の子供を授かり、しばらくは子育てに忙殺される。
子供がまだ小さかった頃、日々の生活に何か物足りなさを感じてジグソーパズルを買ってくる。子供たちを寝かしつけた後、2〜3日徹夜して完成させた。その時気づいたのは「主婦に足りないものって、緊張感と達成感なんだ」ということ。これを打開するにはどうすればよいかと考えたが、結論は「仕事をすること」だった。

プロとしての最初の投資

子供をベビーカーに乗せて職安(今のハローワーク)通いもしたが、かつての知人や友人から少しずつ引き受ける仕事が順調に増えていった。「トレスコ(写真や画像を拡大する機械)」を16万円で購入。まだPCが一般的でなかった時代で、個人事業主としては大きな投資だったが、これでプロとしてやっていく決意を固める良いきっかけになった。 専業主婦ならぬ「兼業主婦」の誕生だ。
「私、営業もちゃんとするのよ」と彼女。「デザイナーとかクリエイターって、そういうのが苦手という人もいるけど、営業も仕事の内」と考えている。
今も、散歩屋として企業とのタイアップも検討しているし、絵地図の制作費も着実にアップしてきた。

デザインやイラストという創造的な仕事、いわば右脳を駆使する仕事をしながら、ちゃんと仕事への投資や営業といった、左脳的な部分もおろそかにしない。しかも「兼業主婦」として家の仕事と両立しながら、サラッとやってのける優れたバランス感覚。それがまち歩きでもいかんなく発揮され、アーティストとしてのユニークな視点と、一人の大人としてのたしなみを通して、地元の人たちと一緒に歩く人たちを、自然な交流へと導くのかもしれない。
「真面目に不良」という自身のキャッチフレーズも、まさにこのバランス感覚をうまく言い当てている。
「夏はもっぱらこれ」という草履履きで、路地から路地へと歩きながら、次々繰り出されるキーワードに思わずうなってしまう。非常に分かりやすく納得がいくし楽しい。これもまち歩き講座が活況を呈する所以だろう。

何の商売でも10年続けていればなんとかなる

そして最後のキーワードがこれ。大学時代の恩師が言った言葉で、「私はこの言葉を聞くために4年間通ったようなものかも」と彼女。
絵地図を描き始めて10数年。10年を過ぎた頃、その絵地図がきっかけで散歩屋となった。それから2年経つが、このあとも散歩屋を続けていけば、きっと次の展開が待っているに違いないと思っている。

数年後、美江さんが次にどんなことをしているのか、それが今から楽しみだ。

これから歩きたいところは? という質問に、「東京山の手」と「外国の都市」という答えが返って来た。下町育ちとしては、固定化した山の手イメージの「すきまに潜む下町っぽさを探してみたい」という。その時には、ぜひまたご一緒させてもらいたいと思う。

 

左端/右端:本郷五丁目「鳳明館」界隈にて
上段左:気軽に建物の由来を尋ねる
上段右:「本郷館」の前で
下段左:アーティストの目で立ち止まる
下段右:夏の定番草履

左端/右端:本郷五丁目「鳳明館」界隈にて
上段左:気軽に建物の由来を尋ねる
上段右:「本郷館」の前で
下段左:アーティストの目で立ち止まる
下段右:夏の定番草履


インタビュアー/写真:堀込多津子

高橋美江 さん
「絵地図師・美江さんの東京下町散歩」(新宿書房刊)

高橋美江(たかはし みえ)

絵地図師・散歩屋。グラフィックデザイナー、イラストレーター。
東京生まれ。生粋の江戸っ子。実家は300年以上続く旧家。
大学卒業後グラフィックデザイナーとして就職するが、結婚を機に退職。子育てがひと段落した頃から自宅で仕事を再開。近年イラストレーターの仕事の一つとしてはじめた絵地図が人気を博し、今では絵地図師として活躍する。また絵地図の制作からまち歩きのプロ、散歩屋へと発展。NHK文化センターで人気のまち歩き講座を持ち、NHKのテレビ出演もこなす。
著書に「絵地図師・美江さんの東京下町散歩」(新宿書房刊)がある。




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