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ライフスタイル 今月の小僧 第22回 坂井諒三さん

今月の小僧 第22回 坂井諒三さん


密談?!

ある時、ソニーの創業者盛田さんと井深さん、お二人揃った所に同席することになった。そこで二人が話していたのは、日本をなんとかしなければと、「二人で参議院に1期限定で出馬しようそこで世界の中の役割を提言しよう。票の為ではなくて…。」という嘘のようなホントの話。しかし、参議院だけではなかなか決められないし、衆議院だけでは自由な発言が難しい。「それじゃ衆議院と参議院に一人ずつ立候補するか」と、話はかなり真剣なものになったという。「二人の間でこんな話が交わされていたのを知っているのは僕だけでしょう」と坂井さん。残念ながら実現はしなかったが、もしあのお二人が政界に進出していたら、今の日本は大きく変わっていたかも知れない。その当時、すでに彼らはドル経済圏に対抗して円経済圏又はドル/円をつくろうと話をしていたという。

ソニーっていったい何?

 立山黒部アルペンルートの入り口富山県「立山町」に生まれ、大自然の中で小学校、中学校時代を過ごす。ちなみに「女性の品格」がベストセラーになっている坂東真理子さんと同じ、五百石小学校、雄山中学校の出身だ。
 高校卒業後、東京に出て早稲田大学に入学。学生運動が激しい頃で、入学と同時にロックアウト。2年、3年は授業があったものの、4年生の頃には再びロックアウトという状態。まともな大学生活とは程遠く、就職戦線という言葉も知らずに、就職活動もギリギリまでしなかった。
 ようやく大手電機メーカーを目指して動き出すが、田舎で見かけるのは、松下と東芝だけ。父親からは松下に行けという希望も寄せられていた。松下電器では第二次面接まで進むが、そこでソニーの第三次合宿選考とぶつかってしまう。もともとソニーを受けるつもりはなかったが、友人が受けるからと軽い気持ちで臨んだら、なんだか受けが良く、第三次まで進んでいた。
 父親は「ソニーっていったい何だ?」というレベルで、当然松下の二次面接を受けるべきだという。一方母親は「大きな会社に入るより、小さくても面白い、自分がやりたい仕事ができる、人を大事にするソニーにしたらどうか」という。迷ったが、結局ソニーを選んだ。すでにここに母親譲りのソニースピリットの源があるのかもしれない。小さくても夢のあるチャレンジする会社だった。

「ラジオの王様」を作る

 ソニーに入社し、最初はラジオ事業部に配属される。前年入社組は、新入社員だけで特別なプロジェクトに取り組まされた。この代には、元ソニー社長安藤国威氏や元副社長徳中暉久氏など、錚々たるメンバーがいたが、皆一筋縄ではいかない、口うるさいメンバーばかり。「新入社員は実行が伴わず文句ばかり言う」と盛田さんの怒りを買い、次の年には「新入社員全員現場に入れろ」との命が下った。
 ところが、配属されたラジオ事業部では、新入社員6名でチームを作り、ラインの仕事とはまったく別のプロジェクトを任されることになった。それが「世界一のラジオを作れ」というもの。  5名の技術系社員は23バンドの製品作りに、文系の彼は、原価計算を受け持つことになった。5ヶ月ほどをかけて完成したのは『ラジオの王様』、定価198,000円也。当時の月給の4倍の価格。製品に絶対の自信はあったが、1年間1台も売れなかった。ところが、1970年に発生したよど号ハイジャック事件の際、機長と犯人との無線のやりとりが『ラジオの王様』で受信出来ることが判明。各国の日本大使館から80台の注文が入った。
 売れた!と喜んだのもつかの間、それまで1台も売れていなかったので、量産のことなど全く考えていなかった。80台の製品をどうやって作るのか、試作品を作るのと、製品として量産するのとでは全く違うという現実を突きつけられた。しかも、原価に金型代を入れないという大きなミスを犯し、80台作っても1台当りのコストは24万円と大赤字。こっぴどく絞られたが、この失敗を通じて、量産のこと、償却費のことなど、本当に多くのことを学んだという。
 新入社員だけのチームに、新製品作りをすべて任せ、その失敗を糧に今後の成長に賭ける。ソニーという会社の懐の深さに感心する。こうやって着実にソニースピリットは注入されていく。「失敗から学ぶ、自分でやってみる、これが重要だ」という。

アメリカで32年

『ラジオの王様』の失敗でチームは解散となり、これからはサービスが重要になると設立されたソニーサービスに配属となる。約40社に及ぶサービス業務の会社を立ち上げ、そこで会社経営のイロハを覚えた。仕事は楽しいし、やりがいもある。そのままソニーサービスに転籍したいという希望を出したら、そこはソニー、やることが違った。すぐにNYへ転勤という命令が出る。安定などを求めては駄目だということなのだろう。
 75年NYに着任。79年までNYに駐在し、79年から80年までシカゴ、80年から85年までLAで副社長、85年から06年までソニーハワイ社社長と、一度も日本に帰任することなく32年間をアメリカで過ごすこととなった。
 英語も話せないまま、トレーニーとして赴任し、その後アメリカ本土ではずっと副社長として上司と部下のアメリカ人に挟まれた微妙な立場だったが、そこからは日本とアメリカ、上司と部下など、周りを冷静に見つめることができた。その時、ある人に言われて「部下として絶対しないこと」「上司として絶対しないこと」を書き出してみた。ノート丸々一冊分になったが、このことが、後にソニーハワイの社長に就任してから、自分自身の行動指針として大いに役立ったという。

一本の電話でハワイへ

 32年間という駐在期間は、ソニーでなくとも異例中の異例。その間、2度帰任命令が出されたことがある。一度目はLA時代。その為の会議に出席すべく10時の便に乗る予定にしていた。しかしその日子供が熱を出し、予定の時刻に家を出ることができなかった。そこへ盛田さんから電話が入る。「ハワイに行ってもらうので、その会議には出なくて良い」とのこと。その時、盛田さんには3人のソニーハワイ社長候補がいて、順番に電話をかけていたらしい。最初の人は不在で電話に出なかった。2番目が坂井さん。本来なら電話にでられなかったところだが、偶然にも電話に出られた。これでソニーハワイ社長への就任が決定。ハワイに行くことは運命づけられていたのかもしれない。
 2回目は99年。盛田さんが亡くなり、例年ハワイで年末年始を過ごす際のお世話も必要なくなった。そこにオーストラリアへの転勤の話がきたが、その時には「いまさら新しい国に赴任するのは」と断ったという。
 そして06年、世界に16万人程いるソニー社員の中で、日本に帰任することなく駐在先で定年を迎えた第1号となった。今はもっと多くの人が、いつかは帰る駐在ではなく、その地で骨を埋めるほどに、地域に密着した活躍をして欲しいと思っている。

アメリカで政治家になる

 長年ハワイに根を張って過ごして来たその経験を活かして、ハワイのために、ハワイを訪れる日本人のために何ができるか。それを考えて設立に参加したのが、NPOハワイシニアライフ協会。今はその会長として協会の認知度アップと会員獲得に奔走する。
 日本の人には、もっと自由に海外生活を楽しみ、人生の後半戦を自分の為に、より有意義に過ごすために、ハワイを活用して欲しいと思うし、どうしても島にとらわれがちなハワイの人たちには、海外からの人々との交流を通じて、より広い視野をもってハワイの将来を考えて欲しいと思っている。そのための一歩が、ハワイシニアライフ協会の活動だ。会員の年齢は不問。
 その活動をもっと大きな動きとするために、アメリカで政治家になるのが今の夢。日系人の政治家とも協力して、ハワイの、ハワイと日本の発展に尽くしたいという。
 ソニースピリットは、「盛田さん、井深さんのDNAだと思う」。冒頭の密談(?)の通り、政治に対する関心も、お二人から受け継いだのかもしれない。
お二人とも、ちょっと変わっている人、世の中の流れになかなか沿わないタイプが好きで、そういう人を登用してきたのも事実。お二人の口癖は「好奇心を持て」だった。その言葉のままに、探究心を失わず、ソニースピリットを醸成してきたハワイで、次なる10年計画、20年計画が進行中だ。「体力には自信があるんですよ」と日焼けした顔で笑う。今も二日に1回のゴルフがその健康の源だ。

「平松さんの感性を大事に思っている小僧comは一番の気になる存在。小僧comの皆さん、ぜひハワイで風に吹かれ、心と体の洗たくを!!! 」


インタビュアー/写真:堀込多津子

坂井諒三

坂井諒三(さかい りょうぞう)

R. SAKAI COMPANY社長。NPOハワイシニアライフ協会会長
長年、ソニーハワイの社長・上級顧問として、ハワイの日系ビジネス界の中心的な役割を果たす。06年ソニーを定年退職し、R.SAKAI CO.を設立。引き続き日本とハワイの文化的、経済的な交流のために奔走し、07年NPOハワイシニアライフ協会設立に参加。現在会長を務める。
アメリカ男子ゴルフツアーソニーオープンのファウンダーおよび現地のボードメンバー。


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