第25回「今月の小僧」岡田達雄さん
ミミズが教えたエコプレー
開口一番「私、ここの常任理事も務めてるんですよ」と見せてくれたのが、生き物文化誌学会の学会誌「ビオストーリー」。次号の巻頭言を担当することになったとのことで、その原稿も合わせて見せてくれた。タイトルは「ミミズが教えたエコプレー」。ここに、大地を耕す生き物たちと、彼が信念をもって取り組んでいるスポーツを通じたエコ活動との接点があるという。
ルールを守って公正に競技するというスポーツの「フェアプレー精神」。これは人と人との関わり方の基本。今、問われているのは人類と自然との関わり方。そこで必要になるのが「エコプレー精神」だ。スポーツを楽しむには、空気や水はきれいな方が良い。そのためには、自然のとのかかわりにもフェアプレー精神を持って取り組み、自然を守り、省エネ・省資源に努める「エコプレー精神」が重要だと考える。
空気と水を守るには、土づくりが大切。そんな土づくりを担っているのがミミズのように大地を耕す生き物なのだ。スポーツと土づくり、そこには切っても切れない縁がある。
明快な論旨、具体的な話の展開に「なるほど」と納得してしまう。いかにも理科系の人らしい論理性と、自分の信念に対する揺ぎ無い自信に裏打ちされているからだろうが、そこに押し付けがましさを感じさせないのは、自然に対する謙虚さがその根底にあるからかもしれない。
絵に描いたようなシティボーイ
東京生まれの東京育ち。中学〜高校はサッカー三昧の日々。大学時代はヨットに夢中で、毎週末江ノ島でディンギーを操り、レースにも参戦。大学卒業後は、アメリカに留学。勉学に勤しむ決意だったが、カリフォルニアの空の下、ここでもヨットの魅力に取りつかれてしまう。
アメリカでの暮らしを大いに楽しみ、大学院でセラミックスを専攻して博士号を取得した後も、アメリカの日系企業に就職。夜討ち朝駆け営業も辞さない猛烈なビジネスマンとして働いたが、4年後に帰国する。
帰国後一年して、友人の新規事業を手伝うために退社。様々なベンチャービジネスに挑戦する中で出会ったのが、大規模スキーリゾートの開発だった。
そしてこのリゾート開発が、絵に描いたようなシティボーイで、華やかなネットワークを駆使した有能なビジネスマンとして活躍する世界から、大きく舵をきるきっかけとなる。
環境への目覚め
環境共存型リゾート開発のために単身赴任した新潟では、「表土」の重要性に気づかされる。土がいかに自然と人々の暮らしに重要な役割を担うかを実感し、スキー場開発では、開発のために削り取った肥沃な表土を、もう一度埋め戻すという工法を採用。1000ヘクタールという広大な土地で「環境共存型リゾート」というコンセプトを徹底し、それを実現した。リゾート開発の用地確保のため、農家の仕事を手伝うことも多かった。その中で、米づくりは「人づくり、和づくり、土づくり」であると教えてくれた村長がいた。ところが、実際の農業は、この教えとは程遠く、農薬や化学肥料により、本来土づくりに欠かせない微生物はほとんど生息しない状況だったという。
この現状にショックを受け、自分で無農薬の米づくりを始める。自然と共に悪戦苦闘する経験が農業や環境への意識を根付かせることとなった。
NPO人生のスタート
東京に戻った後、地球環境に直接かかわる仕事をしたいと、いくつかのビジネスやプロジェクトを始めることになる。その中の一つが国連環境計画(UNEP)と共催した「地球環境テニスフォーラム」だった。この活動が軌道に乗っていく中、協賛する企業の役員から、「地球環境テニスフォーラム」の法人化というアイデアが出される。一方で「なぜテニスなの?」という疑問の声も上がっていた。そこで、スポーツのジャンルを超えた、さまざまなスポーツ愛好家を対象にしたNPOを創ろうと決意。1999年11月、グローバル・スポーツ・アライアンス(GSA)がスタートした。
その後はまさに熱血NPO人生。その熱い思いの原点は何かという問いに、温和な表情には似合わない、意外な答えが返ってきた。
「怒り、ですね」
真っ当に生きて仕事をしている人が正当に評価されない、貧困や環境などの外部不経済を他人事としてほっておく世の中に対して、自分の知識や先人の智恵を生かさないエンジニアや農家に対して、「怒り、というか、ほっとけないという気持と、行政には任せておけないという気持」が溢れ出たという。その思いを実現するために、活動家ではない自分は、スポーツを選んだ。スポーツのフェアプレー精神を基にすれば正々堂々と社会改革を主張することできる。
飲み水の基は雨水です
そして、熱血NPO人生はGSAの活動だけに留まらない。GSA以外にも、ロータリークラブ、日本セーリング連盟、UCLA日本同窓会、そして冒頭の生き物文化誌学会と、様々な組織に参加し、いずれも環境をテーマとする活動の中心にいる。今年の6月までの3年間は、ロータリークラブの地区環境委員長として、各地のクラブで卓話を続け、「飲み水のもとは雨水です」と説いて廻った。 自宅に降った雨を、下水道ではなく、雨水浸透枡を使ってできるだけ地下に浸透させ、地下水を涵養し、植物を育て、光合成を促進し、酸素と水蒸気を放出させることで、飲み水の確保とヒートアイランド現象の緩和が実現できるという。
年間降雨量1500mmの東京で、雨水浸透枡1万個の設置で日量1000トンの湧水を確保できる。ロータリークラブのメンバーは第2750地区だけで5000人なので、一人2個設置すれば良い計算だ。都市が緑地や水辺を取り戻し、雨水を地下に浸透させれば、ヒートアイランド現象だけでなく増水した川による悲惨な災害も緩和できる。
ここでも、非常に論理的で分かりやすい説明に、再び「なるほど」と思わせられた。庭がないとできない取組だが、一戸建てにお住まいの皆さんは、ぜひ検討されてみたらどうだろう。ゲリラ雨の被害を、少しでも防ぐことができるかもしれない。
日本発世界へ
GSAは来年10周年を迎える。10年間の目標は、世界100カ国にGSAの拠点(ローカルチーム)を拡げ、1000人のチームキャプテン、10000人のプレーヤーを育てること。現在は50カ国に130人のキャプテン。あと1年で実現するのはなかなか厳しい目標だが、ゆくゆくは、「エコプレー」という言葉が辞書に載り、一般の人々にもあたりまえのこととして受け入れられることを目指して、これからも活動を続けていくという。究極の目標は、10億人を超えるスポーツ愛好家を「エコプレーヤー」にすること。
日本発のNPOとして世界で認知され、現在193カ国が参加する国連と同じか、それ以上の地域に広がることが大きな願いだ。
「どこにでも行き、誰にでも話します。それは全く苦にならない」という行動力、というか人好きな性格があれば、この願いの実現もさほど先のことではないと思われる。
一方で、10年の区切りを迎えたら、ヨットで世界一周の旅にでることも大きな夢だ。
「行きたいですよねえ。いや、行きます」。
再来年の今頃は、地球上のどこかから、自然の素晴らしさと同時に海の汚れの深刻さを伝えるメッセージが届くことになるかもしれない。
インタビュアー:堀込多津子
プロフィール
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岡田達雄(おかだ たつお)NPOグローバル・スポーツ・アライアンス常任理事。
(財)日本セーリング連盟環境委員長。 |
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