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ライフスタイル 第24回「今月の小僧」松信章子さん

世界的なリーダーの育成


東京財団オフィスにて
 1997年、日本財団の支援を受けて設立された東京財団。松信さんは今、その東京財団の常務理事として奨学事業を担当している。今回初めて財団のオフィスを訪ねると、いつもの通り颯爽と、しかも優しい笑みをたたえて現れた。いつもこの笑顔に勇気付けられるし、自分もこうありたいと思わせられる。
 「それで? 今日は何をしに来たわけ?」という、ちょっと意地悪な第一声にも、「貴方のしたいことにはできるだけ協力するわよ」という優しさが隠れていることがよく分かる。
 まずは、いま彼女が担当している東京財団の奨学事業についてお話を伺う。これはヤングリーダー奨学基金(The Ryoichi Sasakawa Young Leaders Fellowship Fund = SYLFF)といい、1987年に始まった人文科学分野の大学院生を対象にした奨学金プログラム。これまで世界44カ国68大学に、各々100万米ドルが基金として寄贈されてきた。奨学生の選考基準は、学業の優秀さだけでなく、将来を担うリーダーとしての資質が重視される。グローバル化が進む現在、文化や国境を越えた視点をもち、様々な問題に立ち向かえるリーダーを、その国や地域の実情にあった形で支援するというもの。
 近年、NGO活動やNPOの支援活動などを続けてきた彼女にとって、世界が抱える難題解決に向けた、大きな活躍の場がそこにあるように思える。

「女子」の世界

 横浜生まれ。小学校から高校までカソリック系の女子校に通う。男女共学の大学に進学するが、当時彼女のいたクラスだけは男女別学。なんと16年間を「女子」の世界で過ごすことになった。そのせいか、圧倒的に女性の友達が多いという
。 大学の卒業を目前に控えた3月、就職はどうするのかと大学の神父様に聞かれた。それまで就職のことなど、考えもしなかった。当時、女性の仕事は、教師や看護婦、秘書やスチュワーデスなど、いわば女性に適していると考えられていたもの、あるいは男性の補助職のほかほとんどなく、そういった当時の女子の仕事には興味がなかった。公務員になるという手はあったと、後になって気がついたが、当時は周囲にお手本もなく、思いつきもしなかった。
しかし、神父様からの紹介もあり、日本外国特派員協会で秘書の仕事を始める。「1日で自分には向かないと思った」。何故なら、秘書が自分の意見を言うことは歓迎されないから。「つい、言いたくなっちゃうのよ。もっとこうした方が良いとかね」と彼女。子供の頃から反骨精神は旺盛だったようで、「何故そうなの? どうしてそうするの?」と常に現状に疑問を差し挟んでいたとのこと。その性格は、就職しても変わらなかったようだ。
すぐに辞めたのでは、神父様に申し訳ないと、1年間勤務し、自ら後任を見つけた上で、秘書の仕事を辞めた。「反抗的だったけど、不良にはならなかった。真面目な一家だった」。義理堅く、主張はしても道理に反することはしない。当たり前だがなかなかその通りにはできないことを、きちんとする人なのだろう。

自立が大きな目標だった


当時のアメックス会長、社長と。
左端は現小僧com会長平松夫妻
 秘書の仕事を辞めた後、英語教育に情熱を捧げた伯母とそれを助けた叔父が設立した横浜の山手学院という中高等学校で、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドからの交換留学生たちに日本語を教え、生活の指導をすることになった。その後、アメリカのミシガン大学に留学、コミュニケーションを学ぶ。卒業後、自立を目標にもう少しアメリカに残ろうと、多くのレジュメを各社に送った。その内の一つ、ニューヨークの電通アメリカから採用通知が届く。
日本の大手事務機メーカーを担当するが、ちょうどその頃は、日本の事務機メーカーがアメリカ市場の中で、そのコンパクトさを武器に一角を築こうとしていた時期。これまでは大型のB to B市場の製品で、一般消費者向け広告など考えられなかったコピー機の、実物大の写真をウォールストリートジャーナルに掲載したり、テレビコマーシャルを流したり、新商品発売イベントで全米の主な都市を廻ったり。毎日がとてもエキサイティングだったという。
 7年ほど在籍した頃、そのままアメリカに残るという決心もつかず、日本に戻ることを決意。日本のアメリカンエキスプレス(アメックス)に入社する。アメックスでは、マーケティングのほとんどすべての部門を経験。この時期、逆に日本ではカードが浸透し、利用が拡大していく時で、様々なマーケティング戦略を企画実践する機会を得られた。
 バブルの後、さすがのAMEXでも成長戦略に翳りが見え、退職パッケージが用意されたのを期に退社。「サバティカルで少しのんびりしようと思っていた」のだが、じきにフェデラルエクスプレス(フェデックス)から声が掛かる。フェデックスが、経済的にも大きな地位を占めつつあるアジアに注力しようとする、まさにその時で、日本と韓国の担当として、中国系アメリカ人やインド人の上司、アジア各国の同僚、日本人や韓国人の部下に囲まれ、これまでとはまた違った世界を見ることができた。
 「私ってほんとうにラッキーだったと思う」と彼女。電通でも、アメックスでも、フェデックスでも、それぞれのプロダクトやサービスが、マーケットの中で拡大、飛躍する時期にそれを担当でき、エネルギーが満ち溢れているところに身をおくことができたという。
 アメリカでも、そして帰国後の日本でも、常に一線で仕事をしてきたのは、一人でちゃんと生きていくこと、つまり「自立する」という目標がはっきりしていたから。こうして日米、そしてアジアのマーケティングの世界で実績を積み重ね、これまでの大きなテーマだった「自立」はある程度達成したと思った時、すこし考え方に変化が生じたという。

誰かのために働く


アフガニスタンの学校建設現場で
 これまでは「自立」がテーマだったので、「自分」のために働いてきた。その目的が達成できたかなと思ったとき、これからは「誰か」ために働こうと思うようになった。そこでフェデックスを退社し、国際支援のNGOピース ウィンズ・ジャパンに参加する。紛争地・災害被災地で緊急支援や復興支援を行うこのNGOで、ファンド・レイジング、マーケティング、そしてフェアトレードなど、多岐にわたる分野を担当。実際にアフガニスタンや東ティモールにも出向いて、現地の様子を実際に目にし、目からうろこが落ちる経験をしたという。

アフガニスタンの子供たちと
緊急支援は目的がはっきりしているからまだやりやすいが、復興支援は長期的な視野にたった活動が必要だ。だが、緊急時にはメディアで報道される悲惨な状況も、時間が過ぎ去ると、記事に取り上げられる頻度も減り、社会の関心は急激にしぼんで、やがてその危機は忘れられがちになる。たとえまだ現地では悲惨な状況が続いていても。諸外国に比べて、他国で困難な状況にいる人たちへの関心も低く、絶対的な寄付額も少ない日本の社会では、NGOが飛躍的成長を遂げるのはなかなか困難だ。問題は山積しているが、それでも、世の中の役に立つために、自分のできるところからしていきたいと思っている。

働く女性のための「キャリアカフェ」
ピースウィンズ・ジャパンを離れた今でも、働く女性のキャリア形成支援のためにキャリアカフェというワークショックを開催したり、友人の南研子さんが代表を務める熱帯雨林保護団体の活動を支援したりといった活動をしてきた。
そして今、東京財団という活躍の場を得たことは、「誰かのために働く」ということを、これまでにない大きなステージで、ダイナミックに展開できる可能性が広がったと言えるのではないだろうか。これまで、日本、アメリカ、アジアを舞台にビジネスの世界で培ってきたキャリアが、社会貢献の世界でも、大きな推進力を得て活かされる時が来たのだと思う。

インタビューの冒頭「私なんてほんとに普通で面白くないわよ」言っていた。ここまでお話を伺ってきて、自身のことを「普通だ」といえる品の良さ、その上質な人生に、また憧れは強くなるばかりだ。



インタビュアー:堀込多津子

プロフィール

松信章子

松信章子(まつのぶ あきこ)

東京財団常務理事
アメリカンエキスプレスにてマーケティングVP、フェデラルエクスプレスにて北太平洋地区マネージング・ディレクターを歴任後、非営利セクターに移り、国際支援のNGOピース ウィンズ・ジャパンにて、広報・マーケティング担当チーフ・オフィサーを勤める。その後、働く女性のキャリア形成支援ワークショップ「キャリアカフェ」の企画運営を経て、現職。


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