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小説 勝手に進化論

小説・勝手に進化論(#002)作・西田昇平 いたずらな創造主=遺伝子。わが種族は、何故にこの進化の道を選んだのか。人を含む、すべての生き物たちに捧げる、奇想天外、抱腹絶倒の「文学的・哲学的」進化論

●恨みの!? ドイツ人

といっても、私の話はそんなにドラマチックでもなければ、おもしろくもありません。「アナグマ狩猟用」という目的と、いまの私の、というより私たちダックスフントのこの身体が、すべてを語り尽くしています。それがまた、しゃくのタネでもあるのですが……。

人間の世界では、ドイツ人はシステマティックで理論派だと言われているそうですね。言葉を換えれば、それは頑固で型にはまった考え方しかできないということでしょう。私もそうだと思います。少なくとも、私たちダックスフントを生み出したのは、そんなドイツ人の考え方にあったはずです。

アナグマはその名のとおり、深い穴を掘って、その中に棲んでいます。ちなみに、クマという名は付いていますが、それはかかとを地面につけて歩く様子が熊に似ているのでそう呼ばれるだけで、実際にはイタチ科に属するのだそうです。で、アナグマを狩るには、とにかく穴の中から本人を引きずり出さなくてはなりません。

日本人なら、そんなときどうするのでしょうか。煙でいぶし出すとか、いまならさしずめ大きな鉗子(かんし)付きのファイバースコープを穴に差し込んで、内視鏡での手術よろしく、アナグマを発見したらスコープでのぞきつつ鉗子で挟んで引きずり出すのかもしれませんね。

ドイツ人は違います。彼らは、こう考えるんです。

「狩りは犬を使ってやるものだ。だが、この細い穴の中に入っていって、アナグマを追い出したり、それに食らいついたりすることのできる犬はいない。ならば、それが可能な体型を持つ犬をつくってしまおう」

そして、実際にそれを始めてしまう。そうなったら、少しばかり時間がかかろうが、犬としては奇形に近い姿になろうが、そんなことは一切気にしないで、自分のやり方、自分の理論を押し通すのです。というか、自分の方法の正当性を証明するためなら、もはやその犬が犬とは呼べないような体型になってしまっても平気なのです。

「これでやっと、アナグマ狩り用の犬が出来た。さあ、狩りに出かけよう」

ダックスフント1号(D号1=デゴイチ)が成犬になったとき、アナグマ用の犬を開発(そう、改良でも優性遺伝を適用した交配でもなく、われわれは文字どおり開発されたのです!)していた男は軽やかにそう言って、デゴイチを引き連れてアナグマ狩りに出かけたそうです。

それで、アナグマの穴を見つけたとき、猛然とアナグマに対する闘志が湧いたことと、まるで測ったようにその穴にスルスルと入っていけたことが、無性に哀しかったと、亡くなるときにデゴイチが泣きながらこぼしたそうです。

そりゃぁそうでしょう。アナグマへの闘志を植え付けたのも人間なら、アナグマの穴の大きさをまさしく「測って」それに合う寸法の犬(デゴイチ)を作り上げたのも人間なのですから。

<続く>

<お断り>
 本書は、進化論をテーマにした小説であり、進化論を科学的に論じたものではありません。進化の過程についても、一般的事実として確立されているもの以外は、あくまでも想像(空想)に基づくものです。あらかじめご了承ください。(筆者)

 

西田昇平(にしだ しょうへい)Shohei Nishida

ライター、編集者。
1951年熊本県生まれ。1974年一橋大学商学部卒業後、信託銀行勤務を経て、IT系のラ イター、編集者として活躍。現在も大手外資系IT出版社で編集顧問を務める。



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