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小説 勝手に進化論

小説・勝手に進化論(#003)作・西田昇平 いたずらな創造主=遺伝子。わが種族は、何故にこの進化の道を選んだのか。人を含む、すべての生き物たちに捧げる、奇想天外、抱腹絶倒の「文学的・哲学的」進化論

●思いどおりに変えられて

えっ、進化の過程を聞きたいんですか? さっきから言ってるように、つまんないですよ、そんな話。

さっきは格好つけて、適者生存みたいなことも言ってみましたけど、ダックスフントの場合は、要は、身体の大きさをアナグマの穴の大きさに合わせるだけでよかったんですから。それで、猟犬としてのファイティング・スピリッツをなくさないようにしてやれば。

そのあとのことは、誰だって想像つきますでしょう。

小型の猟犬の中でも特に小さくて、足の短い雄と雌を選んで交配させる。それを、何回も何回も、目標のサイズになるまで繰り返すんです。かといって、彼ら開発者は、決して気長なだけじゃないんです。

というのも、単に小さな犬をつくるだけじゃあダメなんですから。

あくまでも猟犬なわけですから、小さいだけでいつもおびえているチワワでは話にならない。ある程度力が強くて、そこそこ敏捷性にも長けてて、そして何よりもファイティング・スピリッツがなければ、目的にそぐわない。

そうすると、穴にもぐりやすい体型といっても、やたら胴体が長くなったのでは、敏捷性を損なう。同じように、足が短くなりすぎると、お腹が地面につかえてしまう。もちろん、顎は丈夫でなくちゃならないし、何よりも主人の命令に忠実でなければならない。そんな、ときには相反する要素を、うまくバランスを取りながら、目的とする体型をつくりあげていかなくっちゃならない。簡単そうに思えて、けっこう大変な仕事だったわけですね、これが。

そんな仕事を何でもなさそうにこなして、当初の目的どおりの「規格」の犬を手に入れるあたりは、さすがドイツ人ですよね。あなたには悪いけど、日本人にはこんな真似できないでしょう。

なんて、私がこんなこと自慢しても虚しいだけですけどね。

えっ、今ですか? ホントのこと言うと、そんなにイヤじゃないんですよね、この身体。見方によっちゃ、けっこう可愛いでしょう。

別な言い方をすると、その可愛さがあるからこそ、われわれダックスフントは生き残れているんですよね。だって、そうでしょう。日本でわれわれダックスフントを見たことのない人は少ないでしょうけど、日本人に「アナグマ猟の猟師」なんてタダの一人もいませんよね。いまや母国であるドイツにも、当初の開発目的のためにわれわれを飼っている人なんてほとんどいないと思いますよ。ということは、まあ、この体型が人間にとっても、けっこう可愛く映ったということなんでしょう。

でも、人の心は移ろいやすいものですからね。最近は、新しい犬種に興味の対象が移って、昔もてはやされていたスピッツさん、ブルドッグさんなんかは、影が薄いですよね。

そうそう、一時は、見るも無惨な顔につくりあげられてしまって、犬全体で人間に対する抗議運動を起こそうかというほどの同情を受けたブルテリアさんなんかも、人気者になって「可愛い!」なんて言われてましたが、もはやブームは去った感じですよね。

ちょっと前まで超人気だったのが、「どうする、……」のチワワさんです。なんかコマーシャルをやってた会社の不祥事のせいで、少し人気に陰りがさしたようですが、まだまだ人気者ですよね。プルプル震えながら、まるい潤んだような瞳で見つめられちゃうと、かばってやらなくちゃって、思ってしまうんでしょうか。人非人だの極悪人だの言われるような人でも、「おおー、可愛いかわいいボクのチワワちゃんっ」なんて、言ってしまいそうですものね。 なんの役にも立たないクセに! ワタシらより、ちょっとだけ小さいだけのクセに!

あっ、いえいえ、焼き餅なんかじゃありません。ただ、「進化」したのではなく、「開発」された者の悲哀と末路を噛みしめてみただけのことです。もっとも、犬全体にとっては、このいくつもの犬種への枝分かれが、一種の進化と言えるのかもしれませんけどね……。

<続く>

<お断り>
 本書は、進化論をテーマにした小説であり、進化論を科学的に論じたものではありません。進化の過程についても、一般的事実として確立されているもの以外は、あくまでも想像(空想)に基づくものです。あらかじめご了承ください。(筆者)

 

西田昇平(にしだ しょうへい)Shohei Nishida

ライター、編集者。
1951年熊本県生まれ。1974年一橋大学商学部卒業後、信託銀行勤務を経て、IT系のラ イター、編集者として活躍。現在も大手外資系IT出版社で編集顧問を務める。



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