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小説 勝手に進化論

小説・勝手に進化論(#004)作・西田昇平 いたずらな創造主=遺伝子。わが種族は、何故にこの進化の道を選んだのか。人を含む、すべての生き物たちに捧げる、奇想天外、抱腹絶倒の「文学的・哲学的」進化論

ところで、「進化」でも「開発」でもどっちでもいいんですけど、私、最近、ひとつ気になってしかたのないことがあるんです。というのは、われわれは、いまのこの身体で「ダックスフント」だって言われているわけですよね。でもね、なぜ「いま」なんでしょう。何がって、だから「進化の終点」が、ですよ。なぜ、もうちょっと前じゃいけなかったのでしょう。どうして、もう少しあとじゃいけなかったのでしょう。

もう少し前でも、十分アナグマ猟はできたはずですし、もう少しあとなら、もっと力強くなれたかもしれないじゃないですか。 もっとも、最近、私たちの体型の可愛さが見直されて、というより「もうちょっと小さかったら、もっと可愛い」なんて考える人が出てきたらしくて、私たち「(伝統的な)ダックスフント」に加え、それよりも小さい「ミニチュア・ダックスフント」、それよりさらに小さい「カニンヘン・ダックスフント」などという、新たな進化組も出てきました。しかも、元祖・ダックスフントの私たちより人気があるようです。でも、アナグマ猟なんかとてもできそうにない彼らは、しょせんダックスフントにとっては亜流ですし、ここで私が言いたい「進化の終点」の問題は、それとは違うことはお分かりいただけますよね。

そう、われわれだけじゃないですよ。ゴールデンレトリーバーの金色の毛並みは、もっと長いほうが素敵じゃないですか。土佐犬の牙はもっと逞しいほうが、闘犬として優れているとは思いませんか。くどいようですが、ブルテリアの顔は、あんなにひどくなる前に進化を止めておくわけにはいかなかったんですかね。

いったい、誰がどういう基準で、「ここで止める」「もうちょっと変える」なんて決めているんでしょうね。そして、その人は、その時点で「進化」を止められた種族の末路をどう考えているんでしょうか。そのことを思うと、私、憤りを感じずにはいられないんですよ。そうして、漫才とかいう日本の演芸の、その昔にはやったという、こんな台詞を真似せずにはいられません。

「責任者、出て来い!!」

ほんと、これを思うと、それこそ夜も眠れなくなっちゃうんですよ。われわれ開発された者だけじゃなくて、自然世界の進化だってそうです。象は、いまの姿が進化の終点なのでしょうか。なぜ、もっと大きくなろうとはしないんでしょうか。いや、象たちにとって深刻な問題であるはずの食糧危機のことを考えれば、もっと小さくなろうとしてもいいはずです。あるいは、いまも、どちらかの方向に向かって進化を続けているのでしょうか。

また例えば、人間が猿から進化したものだとすれば、猿はいずれ人間になるのでしょうか。さらに、水に残った魚たちの中から、いずれ陸に上がろうとするものが再び現れるのでしょうか。

はたまた、空を飛びたいという想いを強烈に抱き続ける人間のグループが、何代にも何百代にも何万代にもわたって交配を繰り返し、飛ぶ努力を続けたら、いつかは空飛ぶ人間が誕生するのでしょうか。

それは不可能だとするなら、進化の限界を決めるのは、いったい何なのでしょう。遺伝子の配列に関する統計・確率上の問題なのでしょうか。それとも、神の意思なのでしょうか。

進化論に対しては、キリスト教を否定するものだとして、長い間、キリスト教はこれを異端視してきたようですが、私には、進化そのものに神の力が働いているように感じられてなりません。科学者はそれを「環境」とか「条件」とか「偶然」とか「突然変異」とか「自然淘汰」とかいう言葉で説明しようとするかもしれませんが、そうしたことを引き起こすのはやっぱり神の意思なのではないでしょうか。

おっと、ダックスフントふぜいが、大それたことを申しました。「開発」されたもののグチ、引かれ者の小唄だと、お嘲笑いください。

<種族その1完。次回から種族その2>

<お断り>
 本書は、進化論をテーマにした小説であり、進化論を科学的に論じたものではありません。進化の過程についても、一般的事実として確立されているもの以外は、あくまでも想像(空想)に基づくものです。あらかじめご了承ください。(筆者)

西田昇平(にしだ しょうへい)Shohei Nishida

ライター、編集者。
1951年熊本県生まれ。1974年一橋大学商学部卒業後、信託銀行勤務を経て、IT系のラ イター、編集者として活躍。現在も大手外資系IT出版社で編集顧問を務める。



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