勝手に進化論
●ランデブーは四阿で
そやなあ、それはきっとまだワシらがニワシドリという科に分派することなく、大本のスズメ族(目)に属していたころのことやったはずや。
当時、スズメ族に、空前絶後にして最強の性豪とうたわれたスケベ鳥「ドウキョー」が出現した。このおっさんが、そらもうムチャムチャなスケベェで、若かろうが年増だろうが、人妻だろうが「おぼこ」だろうが、一切制約なしで、とにかくやってやってやりまくっていたそうや。まあ、そんだけもてたっちゅうことでもあるんやろうな。
そんなわけやから、そこいら一帯に住んどるほかの雄鳥にはなかなかエッチのチャンスが巡ってきぃへん。で、みんな、モンモンとしながら、なんとか雌鳥の気を惹こうと懸命な努力を続けていたわけや。
そんなある日のことや。ある雄鳥が、ドウキョーが雌鳥をはべらしとる枝の真ん前の木に止まってイライラしながらそっちのほうを見いよると思うたら、ヤケクソのように枯れかけた枝を1本くちばしで折って、それをくわえたまま地面に急降下し、突き立てよった。
そらもう、どこぞの特攻隊みたいなもんで、見とったやつらは「アーッ!」とか「ギャーッ!」とか悲鳴を上げて、てっきりそいつが自殺を企てたもんやとばっかり思いよったらしい。ひょっとしたら、そいつ自身も「ええい、こんな女日照りが続くんやったら、いっそのこと死んだろか!」ぐらいの気持ちでやったことかもしれんな。
きっと、その気合いが天に通じたんやろ。枯れ枝は、地面に「凛」として立ち、雄鳥の「男気」を象徴しているように見えたそうや。
その枯れ枝の、衝撃による震えが止まるか止まらんかのうちに、ドウキョーの隣におったいちばん可愛い雌鳥が、地面に突き立てた枝の横で放心したように佇んどった雄鳥のもとに、「素敵ー!!」なんて言いながら舞い降りて行きよった。それにつられたかのように、また1羽、もう1羽、あとはもう、アイドルに群がるグルーピーみたいなもんや。ワアワア、キャーキャー、昨日まで女日照りだったヤツが、枯れ枝一本でモテモテの超人気者や。
同じように女日照りやったヤツらが、それを指をくわえて見てるわけがないわな。次の日から、あっちでも「枯れ枝ダイビング」こっちでも「枯れ枝ダイビング」、そのたびに、雌鳥たちがあっちでキャーキャー、こっちでヒューヒューってなもんや。
まあ、人間の世界で言うたらバンジージャンプみたいなもんやから、誰にでもできるわけやないし、雌鳥もみんながみんな、そんなもんに憧れるとはかぎらんから、スズメ族こぞってというわけやない。そやけど、このときの、言ってみれば「スズメ族ダイブ派」が、われわれニワシドリの直接の先祖になったことは間違いないやろね。
ほんで、どうなったか言うと、当然ながらみんな飽きてきよった。最初こそ、ヤケクソの熱気みたいなもんにあてられて、かっこよく見えよったけど、冷静になってみりゃ、みすぼらしい枯れ枝が地面に一本突き刺さっているだけやんけ。流行なんか、過ぎ去ってしまうと、み?んな同じことなんやろうけど、いったい何にあんなに夢中になっていたんかいな、いうとこちゃう?
そうなると、当然、誰かが新しいこと考えよる。ある雄鳥は、もう1本枯れ枝を突き刺して、門か鳥居のような形をつくって雌鳥にアピールする。そうすると、別のんが3本で芸術性を云々し、隣では4本で空間を演出しよる。あるいは、草や立木を利用するヤツも出てきよる。だんだん段々、エスカレートして、いまみたいな形になったちゅうわけや。
あんたがた人間には、通路のような、参道のような格好にしか見えへんやろうけど(屋根は葺いてないけど、壁はあるから、四阿には絶対に見えんわな。ホンマ、人間の生物学者たらいうもんは、ええかげんな名前をつけよるな)、わしらニワシドリ一族の美的感覚にはあの形がいちばんビ・ビ・ビッと来るんよ。もちろん、愛を語り合う場、つまりベッドとしてな。
しゃーけど、あんたらトーシロにはみんな同じに見えるんやろうけど、あの四阿にも出来不出来があって、わしら作り手より雌鳥のほうがいろいろとうるさいんや。ベットの様子が気に入らへんと、頭をクリックリッって動かして普請ぶりを一瞥したあと、「フン!」てな調子で飛び去ってしまいよる。
そこでまた、奥の手を考えたヤツがおったんや。
<続く>
<お断り>
本書は、進化論をテーマにした小説であり、進化論を科学的に論じたものではありません。進化の過程についても、一般的事実として確立されているもの以外は、あくまでも想像(空想)に基づくものです。あらかじめご了承ください。(筆者)






