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小説 勝手に進化論

小説・勝手に進化論(#008)作・西田昇平 いたずらな創造主=遺伝子。わが種族は、何故にこの進化の道を選んだのか。人を含む、すべての生き物たちに捧げる、奇想天外、抱腹絶倒の「文学的・哲学的」進化論

菜の花畠に、入日薄れ、見わたす山の端、かすみ深し。春風そよ吹く、空を見れば、夕月かかりて、にほひ淡し。(『おぼろ月夜』高野辰之作詞)

いいですよねぇ、日本の四季は。のどかで、懐かしくて、あったかで、ずっとそこに浸っていたい。ほかの国に行ったことはございませんが、日本に生まれて良かったと、しみじみ思います。
古き良き日本の風景──ふる里の風景と言ったほうがよろしいかしら──は、高度成長、日本列島改造の嵐が吹き荒れてからこっち、どんどん失われていますが、幸い、私たち菜の花のある風景は消えずに残っているようです。
この前の春にも、皇居のお堀端の土手に咲く私たちを見て、中年の男性が、さっきの歌を口ずさんでいらっしゃいましたのよ。遠くを見るような眼差しで。そう、口幅ったいようですが、私たちが咲いているだけで、そこに古き良き日本のふる里が現れるのかもしれません。
でも、皆さんの感傷に棹をさすようで悪いのですけど、今、観賞用に植えられている菜の花(アブラナ)には、けっこうセイヨウアブラナ(西洋油菜)が多いんですのよ。
そうそう、その前に、菜の花という言葉自体も整理しておかなければなりませんわね。菜の花の仲間には、キャベツ、白菜、大根などがありますが、私たちアブラナ(油菜)は菜種油をとるために栽培されてきた品種です。日本では、ふつう菜の花と言うときには、私たちアブラナのことを指すようですね。そのほか、今は知りませんが、以前は、小学校の理科の授業で、受粉の仕組みなどを解説するとき、私たちアブラナを例として取り上げていたそうです。そうすると、ひょっとしたら私たちが持つ「ふる里的な懐かしさ」には、そうした子供のころの記憶が重なっているのかもしれませんね。アブラナなんていう響きの美しくない名前からも、マイナーな一族だとばかり思っておりましたのに、ちょっとルーツを調べてみたら、けっこう人間の皆さんに親しまれてきた植物だったので、私、なんだか少しホッとしていますの。

そうそう、ルーツと言えば、先ほどセイヨウアブラナさんのことを言いかけましたけど、私自身も日本古来の植物とはいっても、実際には縄文時代に渡来したのだそうです。でも、まあ、いまの日本人の多くは、それより後に渡来した弥生人の末裔だそうですから、私が「日本古来の」とか「ふる里の匂い」とか申し上げても、誇大宣伝にはなりませんわよね。

なんて、お話ししているうちに、ちょっと日が傾いてきましたわ。でも、ほら、いい風。あらっ、どうなさったの。えっ、いまの風で私の匂いが届きましたの。でもイヤだわ、そんな無防備な表情をなさっちゃ。恋人より、お母さんの胸で甘えているようなお顔ですわよ。違います? 初恋の匂い? おほほ……(婉然と微笑んで、再び風に揺れ、香りを放つ)



<次週に続く>

<お断り>
 本書は、進化論をテーマにした小説であり、進化論を科学的に論じたものではありません。進化の過程についても、一般的事実として確立されているもの以外は、あくまでも想像(空想)に基づくものです。あらかじめご了承ください。(筆者)

 

西田昇平(にしだ しょうへい)Shohei Nishida

ライター、編集者。
1951年熊本県生まれ。1974年一橋大学商学部卒業後、信託銀行勤務を経て、IT系のラ イター、編集者として活躍。現在も大手外資系IT出版社で編集顧問を務める。



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