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小説 勝手に進化論

小説・勝手に進化論(#009)作・西田昇平 いたずらな創造主=遺伝子。わが種族は、何故にこの進化の道を選んだのか。人を含む、すべての生き物たちに捧げる、奇想天外、抱腹絶倒の「文学的・哲学的」進化論

●セイヨウアブラナの「秘密」

ところで、今日のお話は、こんなものでよろしいの?
だめ? もっと話を聞きたいっておっしゃるの? でも、ルーツの話はもうしましたでしょう。

そう言えば、失礼ですけど、人間って随分変わった性分ですのね。だって、生命の根元である生殖や遺伝の問題──つまり、あなたが話題にしてらっしゃるルーツの問題──に関して、ご自分たち人間どころか哺乳類、動物までをさておいて、私たち植物に、説明の大役を押しつけてらしたでしょう。特に、子供たちに対する入門編においてはね。
さっき申しました、私たちアブラナの雄しべ、雌しべを使った生殖の仕組み、それに、エンドウ豆さんを使った遺伝の仕組みとか、みんなそうでしょう。大事なお話を子供さんに教えるのに、事実の生々しさから目を背けるような教え方をしているようじゃあダメ・ダメ。

あら、私としたことが、流行語を使ったりして、はしたない。
えっ? しかも、もう随分古いんですの?
(慌てて話題をそらすように)
ねっ、あなた、ご存じ? 私たちアブラナとセイヨウアブラナさんとの違い。あのねえ、日本のアブラナは蕾(つぼみ)の上に花が咲き、セイヨウアブラナは蕾の下に花が咲くの。なぜそうなっているのかは知らないけど、不思議でしょう。
それに、アブラナは自家受粉しないのですけど、セイヨウアブラナは自家受粉しますの。私、人の悪口は言わないほうですけど、そこだけはセイヨウアブラナさんのこと嫌いですわ。だって、それってなんだか、(消え入るような声で)独りエッチで子供が産まれるようなものじゃなくて? 変ですわよ、絶対。だから、匂いも下品な匂いになるのですわ、きっと。もっと論理的に言えば、下等生物が細胞分裂で子孫を残していくようなもので、いかにも遅れていますでしょう。
第一、私たちに雌しべと雄しべが、あなた方人間に雌(女性)と雄(男性)が出来たのは、複数の親から遺伝子を引き継ぐことで、より複雑(高等)で、生命力に優れた生物になるためでしょう。それなのに自家受粉なんかしていたら、せっかくの進化に逆行することになってしまいますわよ、もう!

でも、そうは言っても、生命力という点では、雌雄による遺伝のシステムを備えた高等生物よりも細胞分裂で増殖するバクテリアなんかのほうが上に見えてしまうのは、どうしてでしょう? 倍々のペースであっという間に増えてゆく様は、環境の変化なんかにも強そうですしね。それに、実際、現在に至るまで死に絶えるどころか、それなりに繁栄しているわけでしょう、バクテリアさんたち。
そう言えば、本来なら、自家受粉しない私たちアブラナのほうが、遺伝学的には優れているはずなのに、なぜいつの間にか、日本でもセイヨウアブラナさんが幅を利かすことになってしまったのでしょう? やっぱり、菜種油が採りやすいからかしら?

少し話は違いますが、ミツバチも、日本古来のミツバチのほうが、襲撃してきたクマンバチ(スズメバチ)を集団で体温を上げて「焼き殺す」といった防衛システムまで持っていて「進んでる」感じなのに、養蜂などで一般に飼育されているのはセイヨウミツバチなんですってね。たぶんセイヨウミツバチのほうが繁殖能力に優れていたり、蜜を集める能力に優れていたりといった理由があるのでしょうが、なんだか日本に在来種がいるのに、あれにもこれにも「セイヨウ……」が利用されているのは、西洋かぶれみたいでイヤですわ。そんなに西洋のものがいいのかしら。品のない言い方なのは承知で言いますが、私、セイヨウアブラナさんよりおブスでしょうか。

こちら、お優しいんですね。そんなに一生懸命、首を振ってくださるなんて。
でもね、「セイヨウ……」という名前のもの以外にも、アメリカザリガニやブラックバス、セイタカアワダチソウなど、最近になって渡来した動植物が在来種を脅かし、生態系を破壊するほどの勢いで繁殖しているのはなぜなんでしょうね。
それなのに、日本の在来種が外国で旺盛に繁殖しているという例は、私、寡聞にして存じませんの。たたなずむ青垣、うましの国、日本、懐かしき、美しき日本の風土は、自分に厳しく、他人に優しいのかしら。
えっ? 昔の衣料、いまの自動車があるだろうっておっしゃるの? おふざけになってはイヤですわ。そのほかの日本の有力な輸出品も含めて、どれも動植物じゃありませんし、第一、生態系を変えるようなものではありませんでしょう……。
でも、私の言い方が悪かったのかもしれませんね。私はただ、古き良き日本の風土を大切に思いたいだけですの。ほら、ご覧なさいな、あのおぼろ月。日本のほかにどこか、おぼろ月の似合う国があるのでしょうか。おぼろ月を愛でる国民がいるのでしょうか。
春の宵。おぼろ月。そして、菜の花……。
なんだか私自身がせつなくなってきましたわ(といって、再び宛然と風に揺れる)。
<種族その3完。次週より種族その4>

<お断り>
 本書は、進化論をテーマにした小説であり、進化論を科学的に論じたものではありません。進化の過程についても、一般的事実として確立されているもの以外は、あくまでも想像(空想)に基づくものです。あらかじめご了承ください。(筆者)

 

西田昇平(にしだ しょうへい)Shohei Nishida

ライター、編集者。
1951年熊本県生まれ。1974年一橋大学商学部卒業後、信託銀行勤務を経て、IT系のラ イター、編集者として活躍。現在も大手外資系IT出版社で編集顧問を務める。



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