稲次船長の地中海航海記
森本哲郎氏との対面
夏場船上、冬場陸上と言う生活パターンは2000年に始まって久しいが、冬場は友人と会ったり、講演を引き受けたり、先輩に敬意を表したり、トルコの船屋と船の補修に関する交信をしたり、必要な物を買い揃えたり、読みたいと思っていた本を一気に読んだりして、結構忙しい。夏場の埋め合わせで信仰心を高めるような努力も欠かせないし、健康管理のための病院通いも時間を食う。
この冬は森本哲郎氏の「神の旅人」(PHP文庫)と言う本に出会い、感激した。世界中至る所を旅して優れた歴史的、哲学的、文化的な紀行文を数多く上梓している大先輩が、矢張り、パウロの足跡を辿り、このような表題をつけてすでに10年以上も前にハードカバーで出版された本が文庫版になったのだった。こちらは海から同じ足跡を求めて旅する事を目標に掲げて船出したのだ。既に30ヶ所以上の港で足跡を確認してその都度感激したので、行く行くは少し文化の香りのする物を書きたいと密かに願っていた。しかし、森本氏の著作を繰り返し読んで、これに対抗する事は全く不可能であり、完全に脱帽せざるを得ないと感じ入った。書ける物なら書きたいと思っていた内容が悉く森本氏の筆で活字になっているのだ。彼の筆の及ぶ所は深く、歴史を動かす「神の力」まで説得力のある達文で記されているのには痛く感銘した。
会社で世話になった先輩と会食の機会にこの話しをすると、森本氏とは中学から大学までの同級で呼びつけで名を呼び合う仲だと言う事が分かり、是非にとせがんで、引き合わせてもらい、ゆるりその卓見に触れると共に、記念に献辞と署名を筆で書かれたハードカバーを頂いて大満足した。船の生活については過分のお褒めに与り、他の誰に褒めてもらうよりも嬉しく思った。
森本氏に会えると言う事になった時に俄か勉強で森本氏の著作を買い集め精力的に読んで多大の感銘を受けた。新潮社から出ている哲学的な日本文化論は入念に書かれていて世界を見る前に日本を良く知らなくてはならないと言う基本命題がこの著者の場合徹底して実行されていると感じた。
森本氏の本の中に引用されているフロイトの推論に興味を覚えて「人間モーセと一神教」と言う翻訳ものを読んで一神教の発生について考えた。無神論者のフロイトが晩年に書いたものなので、古い翻訳は堅苦しくてとても読み辛かった。モーセはユダヤ人ではなく、アクナテンと言う一神教を唱えた例外的なファラオ(在位BC1364-1347)の一派に属するエジプト人で、ユダヤ人を道連れにエジプトを逃げ出したと言うフロイト独特の大胆な推論は大変面白かった。多神教のエジプトで突然現れたアクナテンは一神教による宗教改革に失敗して短期間に王位を追われた人物だ。と言っても余り知られていないが、その妃が有名なネフェルティティ、更にその娘婿がこれ又有名なツタンカーメンで、王位継承後はすぐ多神教に戻り、しかも若くして謎の死を遂げている。今度の夏(2006)はエジプトまで船を走らせる船団に加わる。
関連情報
神の旅人(PHP文庫)著者:森本哲郎
内容(「BOOK」データベースより)
古代ローマ帝国が地中海を制していた時代。イエス・キリストが教えを説き、そして十字架にかけられた。聖パウロは、このイエスの教えを伝えるべく、自らの生命をかけ、2万キロの旅に生涯をささげた。著者は、「神の旅人」パウロの困難にみちた行程を丹念に辿り、旅に秘められた歴史と人間ドラマを見事に描き出す。読者の心を、あたかも同時代にいるように誘ってくれる、渾身に紀行文である。
稲次哲郎の本●船で暮らす地中海(単行本)著者:足立 倫行
内容(「BOOK」データベースより)
「家の代わりに船を買う」という欧米人の発想に惹かれて。人生終盤の設計は、地中海で晴耕雨読を満喫したい。“異邦人の使徒”聖パウロの足跡を辿る夢。波乱の商社マン時代に学んだ「現状肯定的発展主義」の生き方。年金でまかなう航海経費で、映画のシーンのような船上生活。
日本人に合った新たな生活の楽しみ方のヒント。







