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旅 稲次船長の地中海航海記

第10回  ぺトラ遺跡見学 文=稲次哲郎 今年72歳を迎えられる稲次哲郎さんは、毎年ご自身のクルーザーで、奥様と二人地中海周遊の旅を続けています。稲次さんの旅には、聖パウロの足跡をたどるという大きな目的があります。そのクルージングの様子はもちろん、さまざまな人との出会いや、支えてくれる現地の人たちとの交流の模様をお伝えします。

ぺトラの遺跡は長い大峡谷に始まり、その行き付く所に昔の栄華を留める大神殿が石壁を巧みに切削して残されている。聞きしに勝る規模と迫力で観る者に迫り、強烈な印象を与えた。更にはワディ・ラムと言われる大砂漠を4時間に渡りランドローバーで走り回った。太古の昔には海底にあったと見られる奇観を呈した岩山が多く点在する。アラビアのローレンスの映画が撮影された場所だと言う。Garyが頼るイギリス夫人の厚意で取ってもらったホテルが遺跡の入り口に近く、レベルの高いサービスで忘れ難い快適な滞在となった。

ガイドの説明を要約すると紀元前200年の前半から紀元106年までの間ナバテア人が定住してナバタイ王国を建設。ローマからの自治を認められていた。自然の要害に守られながら、騎兵隊を組織して香辛料を主とした東西交易の隊商ルートを確保、首都ぺトラには外国人が駐在するなど、オアシスの都として発展。歴代の王の系図も判明している(ここの王が、有名なサロメの踊りと関係があることを失念していた!)。やがてローマに編入されてこの王国と民族は歴史から姿を消し、この都は長く文明諸国からは忘れ去られていた。19世紀にスイスの探検家が発見して報告、世界の注目を集めた。

ガイドの特別サービスで余り人の行かない高台に苦労して登ると、眼下に昔の生活の跡が一目に見て取れる。指差す方には観光客が大勢集まっているローマ時代の円形劇場があった。やがて豆粒の様に見える群衆の大部分は同じラリーの仲間だと判明した。こちらから声を出して手を振るがとても聞こえる距離ではない。ところが劇場の舞台の中央で女性が歌う声が聞こえてくるではないか。耳を澄ますとソプラノで声楽を専攻したと言うアメリカ人の「タリ」がガーシュインの「サマータイム」を力いっぱい歌っているのだった。劇場の音響効果だろう、加えて昔取った杵柄と言う事だ。こんなに遠くにも思い掛けない張りのある声が伝わってくるので驚いた。

ペトラで会った15歳ほどの女性は、私が生涯で初めて会話を交わしたベドウィン族の娘であった。他の二人の同じ年頃と見られる女性と拾い集めた薪を頭に載せて帰宅するところ。アミナと自称し、英語がかなり上手いので感心する。英語は学校で1年間勉強しただけと言うが一寸信じられない実力だ。実際は3年や5年はやっていると見えた。肌色は浅黒いが、纏った賢そうな顔をしている。7人兄弟で、男二人、女5人、父親には二人の妻がいるという。大きくなったらガイドになって多くの外国の人と友達になると良いと助言して別れた。



関連情報

船で暮らす地中海 稲次哲郎の本●船で暮らす地中海(単行本)
著者:足立 倫行
内容(「BOOK」データベースより)
「家の代わりに船を買う」という欧米人の発想に惹かれて。人生終盤の設計は、地中海で晴耕雨読を満喫したい。“異邦人の使徒”聖パウロの足跡を辿る夢。波乱の商社マン時代に学んだ「現状肯定的発展主義」の生き方。年金でまかなう航海経費で、映画のシーンのような船上生活。
日本人に合った新たな生活の楽しみ方のヒント。

稲次哲郎

稲次 哲郎(いなじ・てつろう) Tetsuro Inaji

1934年中国・奉天生まれ。
一橋大学法学部卒業後、三井物産に勤務。イランの石油プロジェクトなどで活躍。
役員となり、同社中国代表を勤めた後、1995年三井物産を退社。
ベルギー駐在中に芽生えた「夢」を実現するべく、小型船舶操縦士免許、スキューバダイビング上級ライセンスを次々取得。
2000年4月には、フロリダで愛艇「ハイドレンジア号」を購入。8月、フロリダより大西洋を経てマヨルカ島に回航。千恵子夫人と合流して、夢のボート生活をスタートさせる。以後、ボートは現地トルコに保管し、毎年5月〜9月に渡欧して、地中海沿岸を巡航。2004年には、日本人として初めて黒海6カ国就航に成功した。

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