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旅 稲次船長の地中海航海記

第13回 トルコ―メルシン港からタルソスへ 文=稲次哲郎 今年72歳を迎えられる稲次哲郎さんは、毎年ご自身のクルーザーで、奥様と二人地中海周遊の旅を続けています。稲次さんの旅には、聖パウロの足跡をたどるという大きな目的があります。そのクルージングの様子はもちろん、さまざまな人との出会いや、支えてくれる現地の人たちとの交流の模様をお伝えします。

重要な聖パウロ誕生の地であるが、前回訪問済みなので、先の長い今回の旅路に備えて体力温存を図る。今年は久留シェフ夫妻がここから乗船。シェフはトルコに帰りアンタルヤで下船するまで、又奥さんはレバノンまで御一緒した(奥さんが日本に帰る飛行機に乗った時は平和で物資の豊かなレバノンだったので、ここがその一ヶ月後に戦場になるとは思いも寄らなかった)。メルシンでは前回同様原因不明の下痢と微熱を訴える病人が多発した。どうも水がいけないらしい。床屋が来たので船を降りた所で散髪をしてもらった。ラリーの仲間が面白そうに微笑み掛けながら通りすぎる。ここにはマリナの設備が無く、散髪後のシャンプーも野外に急拵えのシャワーが頼りだ。

この港は将来カッパドキアに行く足場になるので良く観察した。久留さんと遠からず時間を掛けてカッパドキアを見に行く事にしている。気球による空からの観光が出来ると言う話を聞いたので是非空からと思っている。

シリア―前回腹をこわして力が入らない状態であったが一応見たので今回は久留さん夫妻だけの観光。
(A) アンテオキアの教会、キリスト教の初代教会として重要な歴史的意味を持つ、聖ペテロがここで活動したと伝えられる。
(B) クラックデシュヴァリエ、十字軍が12世紀に築いた保存状態の良い城砦、トルコ軍にうかつにも騙されて戦わずして明渡したと伝えられる。
(C) パルミラ、地中海とペルシャ湾を結ぶ隊商による東西交易の中継点としてローマ時代に栄え、一時シリア・メソポタミアを支配した。AD3世紀ゼノビアと言う女王がローマに反抗して皇帝アウレリアヌスによって滅ぼされた。膨大な遺跡だが余りに広範囲で、聊か散漫の印象を免れないと感じる。
(D) ダマスカス、聖パウロにも重要な関連のある歴史上最古の都の一つ、彼はここに向う途中で突然稲妻のような光に打たれて失明、奇跡を経験してキリスト教の迫害者から転じてキリスト教史に名を残す大伝道者となる

レバノン―バールベック。ベイルトとダマスカスの中間で、交通商業の用地として栄えた古都。ローマ時代に出来たレンガ色の大理石による大神殿が見る者を驚かす。倒れた石柱の直径が2米に及ぶ

イスラエル―4つの港に寄港。その度に欲張った観光だが快適なバス、しっかりした英語のガイドで大満足を得た。
(A) ガリラヤ湖、キリストがペテロ始め使徒と呼ばれる弟子を集め宣教を始めた所、山上の垂訓、数々の奇跡の地として知られ、教会が立ち並ぶ。
(B) キリスト受洗の地、今でも集団受洗が行われる。
(C) エルサレム、キリスト殉教の地。
(D) 嘆きの壁、写真撮影が禁じられている。
(E) マサダ:ピーターオトゥール主演で映画にもなったイスラエルの過激派ゼロテ党の一団約9000人ががローマ鎮圧軍に徹底抗戦して最後に女子供も共にの玉砕した城砦。ケーブルカーで砦に辿り着くや、悲劇の現場がたちまち身に迫り、時間が経つのを忘れる。帰りに死海にて浮遊実験。

ポートサイドからスエズ運河に少し入ったところに昔海軍が使っていた小さな港がある。ここを借切って60隻ほどのヨットが詰込まれた。狭くて窮屈だが、町からはしっかり隔離されていて安全性に主力を置いた手配と見られた。皆ヨットはここに置いたままバスに乗ってカイロに出掛け二晩泊まりで観光するのだ。

エジプト―ピラミッド、スフィンクス、カイロ博物館
ピラミッドなど何れも22年前の第一印象の方が強烈で、今回はその後も変わりないと感じた。優秀な女性ガイドと個人的に話したが、アクナテン(アメンヘテプW世)とその妻ネフェルティティ、その後継者ツタンカーメンにまつわる話は面白かった。特にアクナテンが始めた一神教が何故挫折したのかエジプト人の意見を聞きたかったので彼女との会話に満足した。

印象的なナイル河の舟遊び

ホテルに入る前に約30分ほどであったが、カイロの街を流れるナイル河に浮かぶハルックと言う昔ながらの四角い帆を張った小舟にラリー仲間と一緒に乗って楽しく過ごした。ハルックを操るのは船頭一人だけで#で#、ヨット仲間が乗り合わせて昔ながらの帆についてやいのやいのと語る中、巧みにこれを操ってすいすいと回遊する。一同拍手喝さいだ。今回エジプトで一番楽しかった瞬間だ。



関連情報

船で暮らす地中海 稲次哲郎の本●船で暮らす地中海(単行本)
著者:足立 倫行
内容(「BOOK」データベースより)
「家の代わりに船を買う」という欧米人の発想に惹かれて。人生終盤の設計は、地中海で晴耕雨読を満喫したい。“異邦人の使徒”聖パウロの足跡を辿る夢。波乱の商社マン時代に学んだ「現状肯定的発展主義」の生き方。年金でまかなう航海経費で、映画のシーンのような船上生活。
日本人に合った新たな生活の楽しみ方のヒント。

稲次哲郎

稲次 哲郎(いなじ・てつろう) Tetsuro Inaji

1934年中国・奉天生まれ。
一橋大学法学部卒業後、三井物産に勤務。イランの石油プロジェクトなどで活躍。
役員となり、同社中国代表を勤めた後、1995年三井物産を退社。
ベルギー駐在中に芽生えた「夢」を実現するべく、小型船舶操縦士免許、スキューバダイビング上級ライセンスを次々取得。
2000年4月には、フロリダで愛艇「ハイドレンジア号」を購入。8月、フロリダより大西洋を経てマヨルカ島に回航。千恵子夫人と合流して、夢のボート生活をスタートさせる。以後、ボートは現地トルコに保管し、毎年5月〜9月に渡欧して、地中海沿岸を巡航。2004年には、日本人として初めて黒海6カ国就航に成功した。

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