サカイさんの農場をあとにした私たちは、いよいよ、ジャングルに潜入することになった。車が入れるような道が続いているわけではないので、船に乗り換える。といっても、井の頭公園のボートにエンジンがついたぐらいのシロモノだ。しかも、河口から1000キロ以上離れているというのに、対岸が霞んで見えるほど川幅が広く、まるで海。波も少なくただ悠然と流れていくので、案外、のんびりした船旅となる。
探検気分でしばらく進むと、正面から親子連れのボートが近づいてきた。上半身裸の毛むくじゃらのおじさんと小学生ぐらいの女の子が1人。なにやら、どっちゃり荷物が積んである。水、パン、石けん、Tシャツ……etc。
要するにアマゾンの移動コンビニらしい。必要なモノをいくつか買い込み、またしばらく行くとさらに別の船。もしかして、移動ガソリンスタンドじゃん……といった具合で、アマゾンならではのさまざまな船に遭遇するので、興味津々だ。
で、そろそろ夕暮れなんだけど、誰も宿のことを考えていなかった。ホテルらしき建物は当然、見当たらないし、どこまで行ってもジャングルオンリー。今夜はいったい、どこに泊まればいいのだろう?
「心配無用」とでも言わんばかりに自信満々なガイドが、遠くの岸を指差した。そこにあるのはホテルにはほど遠い、どうみても、掘っ立て小屋。しかも、床の下には巨大なタイヤのチューブが6つ、アマゾン河に浮いている。要するにボートハウスってことらしい。
なんだか兼高薫な感じになってきたなぁと思いつつ、上陸すると、いきなり猿に抱きつかれた。その名もポッシーナ。看板娘ならぬ、看板ザルである。長いしっぽの裏側は毛がなく、尾紋という肉球のような固いギザギザがびっちりついている。木に絡みついたり、ぶら下がったりできるのはこの滑り止めのおかげらしい。でもって、彼女は私に抱きついたきり、その長いしっぽで体をぐいぐい締め付け、飛んでも、はねても、いっこうに離れてくれない。
10分経ち、20分経ち、いい加減、獣臭くなってしまったので、宿のおじさんにSOSすると、何を思ったのか、ビールを1本持ってきた。それを目にしたポッシーナはおもむろにビール瓶を奪い取り、クビクビとおいしそうに飲み干すではないか……酒飲みのサルってどうなんだろう。
ところで、この時点で私は2日間風呂に入っていなかったのだが、汗と水しぶきとサルの攻撃で、かなりワイルドな匂い。どうにも耐えられなくなってしまった。
しかし、小屋には風呂などなく、シャワーさえない。一応女だし、何とかしたいなぁと思っていると、突然、誰かがバッシャーンと、川に飛び込んだ。……カメラマンだった。しかも、満面の笑みで立ち泳ぎする彼のすぐ隣で、宿のオヤジがピラニア釣りをしている。「気持ちいいから、おいでよ!!」って、言われても……。
鼻をつく匂いと、アマゾンの川風呂。どっちを取るか、究極の選択だが、仕方なく水着に着替え、デッキに腰を下ろした。目を凝らして波の下を覗いても、水の色が濃すぎて何も見えない。体長4メートルぐらいの巨大魚が間違いなく、すぐ下にいるはず…と思いながら、試しに手で水をすくってみると、意外にも、写真でよく見る泥の河は、透き通っていた。ちょっと濃いめに入れた紅茶か薄めのアメリカンといった感じ。
「根性ナシ」とでも言いたげにカメラマンがあまりにせかすので、覚悟を決めて一気にドボン! 頭まで浸かって、ちょっと驚いた。……あれ? もしかして、しょっぱい?? というか、アマゾン河はっきり言って塩味。それもそのはず、アマゾンは昔、海だったのだ。
今から約1500万年前にロッキー山脈が隆起し、巨大な内海が大西洋と太平洋に分断されたため、取り残された水流がアマゾン河になったという話。その証拠にマナウスの市場には、アジやタイ、カレイやサヨリ、イシモチまでいる。海のそれとは種類が異なる汽水魚(淡水と海水が混じり合う領域に住む魚)だが、味はほとんど同じらしい。百聞は一見に如かずということで、その夜はアマゾンの魚をバーベキューすることになった。
出版社、広告制作会社、編集プロダクションで、雑誌・書籍の編集、ライティング、広告制作物のディレクション、イベントの企画・プロデュースを経験。会員誌の実績も多く、主なものに、DCカード「ザ・カード」、アメリカン・エキスプレス「インプレッション」、高所得者向け会員誌「バケーション」、コンチネンタル航空機内誌、KLMオランダ航空機内誌、日比谷花壇会員誌「ペタル」などがある。 2004年独立し、2005年有限会社ダイバーシティ4を設立。その後も、雑誌の編集、広告制作物のディレクションを中心に活動。旅の企画も多く、秘境、リゾート、歴史ものなど幅広い切り口で世界中をレポートしている。
写真・水野康夫(Mizuno Yasuo)