わーるどわんだらん!-World Wandering Run
いきなり世知辛い話題から入るが、旅取材はとにかくお金がかかる。カメラマンとライター、編集者3名分の交通費に飲食代、宿泊代、コーディネート料、さらに各スタッフのギャランティなど、たかだか数ページの企画を作るのに100万円は軽く越える。ゆえに、台所事情の厳しい弱小編集部は資金繰りに苦労するのだが、奥の手がないわけでもない。いわゆるタイアップというやつだ。
航空会社にチケットを提供してもらったり、ニューオープンやリニューアルしたホテルの部屋に無料で泊まらせてもらったり、相手国の政府観光局からプレスツアーに招待されれば、旅費はほとんどタダ。が、タダほど怖いものはないのが世の常で、そこにはちょっとしたカラクリがある。たとえば、どんなにインテリアがダサくても、食事がまずくても、見て見ぬ振りを強いられるどころか、そこは現場のテクニックを駆使して、それなりの世界を作らなければならなくなる。つまり、「自腹きって来るところじゃない!……」と思うようなリゾートでも、取材に行ったら最後、適当に褒めちぎってやらないと仕事として成り立たなくなってしまうのだ。私はこういう企画にあたると、いつも心の奥底で懺悔している。もっとも、本当に素晴らしいリゾートでもこちらの力量不足でその良さを十分伝えきれない時は、さらに落ち込むことになるのだが。
なのでこの小僧comでは、ウソのない情報に徹したい。海外へ行くと曲がりなりにも「ジャーナリスト」と呼ばれるわけだし、もう笑って誤魔化せる年齢ではないので、本音で勝負してみようと思う。だからみなさん、ご旅行の際にはこの「わーるどわんだらん!」を安心してご活用いただきたい。ただし、私のセンスで良ければ。
では、前置きはこのへんにして、今回のテーマは「絶対、おすすめのリゾート」。そろそろ夏休みなので、南の島に飛んでみよう。ただし、やるべき事や食べるべきものを事細かく挙げていったらキリがないので、あえて、“何もないが、何もしなくても、気持ちよくなれる島”をご紹介したい。
場所は、タイ。アンダマン海に浮かぶコ・ランタ(ランタ島)。
レオナルド・ディカプリオ主演の「ビーチ」という映画をご存じだろうか。自由と刺激を求めて、地上の楽園と呼ばれる島にやって来た若者たちがさまざまなトラブルに巻き込まれるという内容なのだが、その舞台となったピピ島は、ランタと同じクラビ県に位置する。周辺には100を越える島々が点在し、アイランドホッピングやダイビングスポットとしても有名。小さな島ばかりなので、ほとんどの観光客はクラビを拠点にステイするが、この街はバックパッカーの聖地みたいなところで、真夜中になると、あっちこっちの入り江でシークレットパーティやレイヴが開かれたりする。

ヨーロッパから遊びに来たお金持ちのボンボンやアーティストもどきたちが、ヨレヨレになるまで泥酔したりするかなり怪しい集まりなので、行儀のいい大人にはあまりおすすめはしないが、ヒッピー気分を味わうにはいいかもしれない。
さて、本題のランタ島。ここは、騒々しさとはまったく無縁なのだが、とにかくアクセスするのがひと苦労。ほとんどの観光客はまず、バンコクかプーケットに到着してクラビまで飛行機で移動、そこからさらに車で小一時間、最後はスピードボードに乗り換えて30分。たどり着くまでにだいたい半日はかかる。迎えのワゴンもスピードボードもかなりの年代モノなので多少不安にもなるが、それだけに島が見えてきた時の感動はひとしお。爆走するボートが少しずつ速度をゆるめて、入り江をぐるりと回り込んだ時、目の前に突然広がる真っ白なビーチ! 桟橋はなく、裸足になって膝まで水に浸かりながらボートを下りると、スタッフが駆け寄ってくる。「スリランタへようこそ!」。
ビーチには、東屋風のレストランとこぢんまりとしたプール。山の斜面には茅葺き屋根のコテージが不規則に点在し、リゾートというよりはむしろ、ジャングルの村といった様相。しかし、よく見ると意外にモダンな作りで、レセプションには錦鯉が泳いでいたりする。なんか、いい感じじゃない!と期待しつつ、コテージに通されるとさらにびっくり。
6畳ひと間の中央に天蓋付きのベッドと座卓が1つ……以上。テレビもない、ラジオもない。鏡もなければ、クローゼットもない。バンブーラダー(竹のはしご)には、コットンの巻きスカートとフィッシャーマンパンツがさりげなく掛けられ、その横に麻で編んだバックが置かれている。要するに、「ここではコレだけで十分」な部屋着セットなわけだ。で、お風呂はどこに? と思いながら玄関横のドアを開けたら、外だった! バスタブはなく、トイレとシャワーと洗面用のシンクがあるだけで、屋根も壁も囲いもない。とまぁ、ナイナイ尽くしなのだが、1つだけ他にはないものがある。
この茅葺き屋根のコテージは、ほぼ正方形の高床式で3方に窓がついている。カーテン替わりの白いオーガンジーをくるくると巻き上げると、周りは鬱蒼としたジャングル。しかも、正面の窓を開け放つと、大きな芋の葉のすき間からブルーの海が一望できるのだ。ベッドに寝そべりながら、ボーッとするにはもってこいのシチュエーション。夜には虫やカエルが大合唱し、ふと天井を見上げるとヤモリがくっついていたりする。これぞ、スーパーナチュラルリゾート! なんとも快適なキャンプなのだ。
「スリランタ」の支配人はオランダ人で、その昔は名うての銀行家だったらしい。銭金に塗れた生活がイヤで、脱サラしてこの島に来た。オープン当初は現地人スタッフとのやりとりにも苦労したそうだが、ホスピタリティのなんたるかを徹底して教え込むうちに、この島の本当の価値に気がついた。彼は言う。「嘘偽りのない彼らの笑顔。これは、何にも代え難い」。
これまでも、いろんなリゾートを取材してそれなりに贅沢な思いをしてきたし、中にはセレブがお忍びで籠もるような1泊何十万もする部屋もあった。けれど、日本に帰ってから原稿をまとめ出すと、やれ大理石だ、フルコースだと、何だかどれも同じに思えて、筆がすすまない。ラブラブなプライベート旅行なら感じ方も少しは違うのだろうが、仕事なだけに、正直苦痛に思うこともあった。それだけに、この「スリランタ」は目からウロコで、装飾が一切ないわりには、書きたい気持ちが沸々とわき上がってきたのだが、哀しいかな今の私には魅力を伝えきるテクニックが足りない。情けない話で本当に申し訳ないが、とりあえず行って確かめてみてほしい。
そうそう、もう1つおすすめがある。「スリランタ」のトムヤムクンは、たぶん、おそらく、世界一!
次回はランタ島を探検。どうぞ、お楽しみに。







