岩塩をふり、炭火でじっくり塩焼きにするのがアマゾン流。
今でもよく思い出すのだが、一番おいしかったのが「タンバキー」というピラニアの仲間で、引き締まった白身はクセがなく、脂がのっていてジューシー。
強面の「ヨロイナマズ」も、硬いウロコをじっくり炭であぶると中が蒸し焼きになって、身が柔らか。他にも、バスによく似た「トゥクナレ」や件の淡水イシモチ「ペスカーダ」を一緒に煮込んだアマゾン風ブイヤベースなど、アマゾン料理のバリエーションは豊富だ。好みでライムを絞ったり、辛みが強烈な「ムルピー」というトウガラシをかじったりもする。
それと、「カイピリーニャ」も忘れてはならない。サトウキビから作られる蒸留酒「ピンガ」に、砂糖とライムをどっさり入れたカクテルで、アルコール度数は50度近く。カメラマンもライターも、すっかりハマったようだ。
私はというと、恥ずかしながら下戸なので、ガラナ入りのレモンジュースで乾杯。ビール瓶を抱えたポッシーナと一緒に、すこぶるご機嫌の宴が続いた。
さて、夜も更け、月がてっぺんまでのぼった頃、宿のオヤジがいそいそと何やら準備を始めた。「これから、おまえたちにいい経験をさせてやる」。何かの儀式か? と思ったのは、私。女か? といやらしい顔をしたのは日本のオヤジたち。想像を膨らませながら、誘われるままボートに乗り、一行は夜のアマゾンに繰り出した。
シーンと静まりかえった漆黒のアマゾンは何とも不気味。岸辺の方に目を向けると、拳ほどもある大きな無数の光の玉がボッ、ボッ、と点滅している。まさか、火の玉じゃないよね?と、オヤジに聞くと「蛍だ」と笑われた。デカすぎて、情緒なんてまったく感じないオバケ蛍だ。
舳先に陣取ったオヤジは、懐中電灯を手に周囲の様子を注意深く窺っている。すると、さっきのオバケ蛍とは違う、強烈な光が懐中電灯に反射した。オヤジは、待ってました!とばかりに、その光の方へとぐんぐんボートを近づけていく。
ボートが岸辺に着いた時、「××××!!」と何か叫んだオヤジが勢いつけてむんずと手でつかんだもの……ワニだった!!
首根っこを捕まれた小さなワニは、何をするんだ!?とこちらを睨みながら、長い尾っぽをバタつかせている。いくら子供だからって、ワニはワニ。あまりの恐怖にカメラマンの袖にしがみついた私を見て、オヤジが言う。「さぁ、持って帰るか」。
持って帰るって、どうやって? 何のために?????
結局、生け捕りにされたワニは、スノコ一枚隔てた船底に押し込められた。つまり、万が一スノコがはずれたら私の足を確実にガブリ、だ。つま先をあげても、恐怖は消えない。
小屋に戻ったあと、オヤジはそのワニをデッキに引き下ろした。すると、おもむろに仰向けにひっくり返し、噛まれないよう片手で口を押さえながら、その白いお腹をゆっくりと撫で始めるではないか。ワニは最初、何とか逃れようと身もだえていたが、しばらくすると観念したのか、5分もするとほとんど動かなくなった。しばらくして、オヤジがそぉっと手を離す。……ピクともしない。っつ〜か、寝てるじゃん!!どうだ、見たか? とばかりに自慢げなオヤジ。 なんて技だ、ありえねぇ。
パニック映画などで語られるアマゾンはおどろおどろしく、恐怖をかき立てられるシーンも多いが、実際に、現地の人と何日間か"暮らしてみる"と、こんな予期せぬハプニングも普通のことのように思えてくるから不思議だ。時折り、森の奥から聞こえてくる生き物たちの雄叫びも、波の下にうごめく得体の知れない魚たちの気配も、慣れてしまえば気にならない。
彼らにしてみれば、私たちも同じ生き物には違いなく、テリトリーを侵したり、営みを邪魔したりしなければ、襲われることもない。
海外取材の際にいつも思うのだが、こういう稼業をしていると、目の前のことに熱中しすぎて、無意識のうちに相手のペースを乱し、結果、傍若無人な振る舞いをしてしまうことがある。
「郷に入れば、郷に従え」という諺があるが、常に「お邪魔します」の気持ちを持っていないと、相手は気持ちを開いてくれない。それは、自然が相手でも同じらしい。アリに襲われたのは、アマゾンなりの制裁だった。つまり、自然には自然のルールがあって、いくら懐がデカくても、マナーがよろしくないと痛い目にあう。逆に礼儀さえ守れば、ピラニアが横にいても、水浴びできるというワケだ。もちろん、彼らがお腹を空かせてなければの話だが。
船出から最後の余興まで、目まぐるしく過ぎたアマゾン河の1日。ほとほと疲れ切った体に睡魔が襲ってくる。しかし、小屋にはベットがない。
あぁ、またしてもアマゾン流。宿のオヤジからハンモックを渡された。
安眠するにはちょっとしたコツがいる。体をハンモックの中央にまっすぐ横たえると、捕獲網のようにくるりと包まれてしまい、腰痛に悩まされる。だから、頭と足先を対角線上にずらして、ナナメに寝るのが正解。慣れれば、けっこう快適なのだが……このハンモック、なんだか、ケモノ臭いのは気のせいかなぁ。